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ラヂオスターの悲劇
トマーシ
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2003年05月11日(日)
Blue Berry Tone

 テレビの青白い光が明かりの消えた部屋に射す唯一の光だった。

 サッカーを観ていて、そのまま寝込んでしまった。

 その試合はいま後半終了間際、スコアは3−1、

 画面に映る選手たちは皆ゆったりとしたジョグを踏んでいる。

 アナウンサーも幾つかのナレーションを挟み、

 ペリエウォーターで喉を潤したり、

 眼鏡に付いた曇りを拭き取ったりしている風で
 
 そういったものがテレビのスピーカーを通じてサワサワと伝わってきた。
 
 耳を澄ませると、小石が再び窓を打つ。

 これで二度目だ。

 布団から這い出て、部屋の明かりを灯した。

 時計は2時を回っている。僕はその窓を開けた。

 

 僕の部屋はアパートの一階で、

 ポインセチアやベゴニヤの鉢植えの雑然とした裏庭に面していた。
 
 裏庭は別の裏庭と背中合わせになっている。

 よくは知らない大きな家。
 
 雨が降ると、僕はその家の瓦に当たる固い雨の音を聴いた。

 垣根が邪魔してそれ以上は見えないが、

 その垣根は毛虫も食わないような黒々とした固い葉の生垣。

 いつもヒッソリと夕餉の煙りが立ちのぼった。


 窓を開けると、そこにはユキがいる。

 黄色い合羽を着て、傘を廻して、顔を斜に傾けて、

 子犬のように荒い息を立てていた。

 僕は窓から手を出して、掌を空に向けてみる。

 僕の右手は何も掴まない。

 雨ではない。ユキの合羽が目に眩しくて、

 空を仰いでも、何も見通せなかった。