テレビの青白い光が明かりの消えた部屋に射す唯一の光だった。
サッカーを観ていて、そのまま寝込んでしまった。
その試合はいま後半終了間際、スコアは3−1、
画面に映る選手たちは皆ゆったりとしたジョグを踏んでいる。
アナウンサーも幾つかのナレーションを挟み、
ペリエウォーターで喉を潤したり、
眼鏡に付いた曇りを拭き取ったりしている風で そういったものがテレビのスピーカーを通じてサワサワと伝わってきた。 耳を澄ませると、小石が再び窓を打つ。
これで二度目だ。
布団から這い出て、部屋の明かりを灯した。
時計は2時を回っている。僕はその窓を開けた。
僕の部屋はアパートの一階で、
ポインセチアやベゴニヤの鉢植えの雑然とした裏庭に面していた。 裏庭は別の裏庭と背中合わせになっている。
よくは知らない大きな家。 雨が降ると、僕はその家の瓦に当たる固い雨の音を聴いた。
垣根が邪魔してそれ以上は見えないが、
その垣根は毛虫も食わないような黒々とした固い葉の生垣。
いつもヒッソリと夕餉の煙りが立ちのぼった。
窓を開けると、そこにはユキがいる。
黄色い合羽を着て、傘を廻して、顔を斜に傾けて、
子犬のように荒い息を立てていた。
僕は窓から手を出して、掌を空に向けてみる。
僕の右手は何も掴まない。
雨ではない。ユキの合羽が目に眩しくて、
空を仰いでも、何も見通せなかった。
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