日常喜劇

2001年10月19日(金) 一日遅れたプレゼント


「誕生日おめでとう密♪」
「…」
密は不機嫌に眉をしかめた。決して夜風が寒いからじゃない。昨日からずっと、こんなふくれ面ばかりしているのだ。
「…今日が何日だか知ってっか?」
「10月19日。一日遅れちゃったけど、許して?」
満点の笑顔。一日遅れたことなんてまるで気にしてない素振りだ。その顔に腹が立った。自分が一体、どんな思いでこいつのこの言葉を待っていたか。ネクタイを引き寄せて耳元で大声で怒鳴ってやりたいくらいこんなに。
「…あれ?どうした?」
密は思わず下を向く。
…こんなに不安だったのに。
「…なんでもない」
押し殺した声で、やっとそれだけ言えた。
「ご、ごめん遅れちゃって!あ、でもえーとでもちゃんとホラ!」
ごそごそとコートのポケットから取り出して、目の前に差し出された小さなラッピング。どう見てもそれは。
「誕生日プレゼント♪」
なにが誕生日プレゼントだ。そんなんもらう年じゃない。
でも。
いつの間にか、胸にあったトゲがなくなっていた。
「色々考えたんだけど、実用的な方がいいかなと思って」
にこにこと笑う相棒の顔を見て、密は小さくかぶりを振った。
「…いい」
「密?」
そこでようやく、都筑は真面目な面持ちになった。密の様子がいつもと違うことに気付らしい。
「プレゼントはいらない」
黙って、密が先を続けるのを待っている。その気は暖かくて、泣きたくなるほど優しかった。
「…お前は、言葉だけで十分だから」
都筑が驚いて目を見張る。
「密…」
都筑がいくら鈍感だからって、ここまで言えばいい加減分かるだろう。密はふんとそっぽを向いた。その視界いっぱいに、黒いコートが広がる。
暖かい、と感じたのは、ふいに冷たい夜風が遮られたからだった。
「足りないよ」
すぐ真上から囁かれる声。笑みを含んだ小さな。
「物だけでも言葉だけでも足りない」
黒いコートに包まれて、2人して闇の中にまぎれ込んでしまったみたいだ。誰にも内緒みたいで、密は嬉しくなった。
「じゃあ、どうする気だよ?」
久しぶりに、自然に頬がゆるんだ。嬉しくて切なくて、視界がぼやけそうになるのを黒のコートに押し付ける。
「だからとりあえず、これもらってよ」
さっきのプレゼントのことだろう。顔が上げられなかったけれど、密はそう分かった。
「…しょうがねぇな」
そこから顔を離し、密はしぶしぶのふりをして手を差し出した。


…明日に続きます!


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牛良 [MAIL] [HOMEPAGE]

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