日常喜劇

2001年10月20日(土) 続・一日遅れたプレゼント


手の上の小さなラッピング。
使い古された映画のワンシーンがちらりと脳裏によぎった。プレゼントは小さな小箱で、その中にはプラチナのリングは入っている。
「…何これ?」
まさかそんなことはないだろうけど、密は少し緊張してしまった。
「えへへ、開けてみてよ」
ものすごく嬉しそうに、密が開けるのを待っている。それに急かされたつもりはないけれど、密はとにかく包みを開けた。
「…何これ?」
さっきとはまるで声の調子が変わってしまった。それほど、その中身は意表をついていた。片手サイズのプラスチックの容器、それは。
「しょうゆさし」
「なぜだーーーーっ !?」
目の前にちゃぶ台があったら、まず間違いなくひっくり返していただろう。さっきまであんなに盛り上がっていたのに、なぜここでしょうゆさしなのだ。
「俺こないだ密ん家のしょうゆさし割っちゃっただろ?悪いなと思って。それにないと不便だし。あ、もしかしてもう買っちゃった?!」
「…………いや」
手の中のしょうゆさしを割りそうな勢いで握り締めてしまう。…いつの間にこんなに話のジャンルが変わってしまったのだろう。
「よかった〜〜〜」
その、心からの笑顔を見て、辛うじて保っていた密の自制心はぷつりと切れた。
「ざけんなテメェ!昨日までの盛り上がりはどこ行った?! 一体何人のお嬢さんが昨日の話読んでモエたと思ってんだ!」
「え?え?何の話?」
都筑がたじたじになって一歩引いた。
「たまにらぶーな展開行ったから皆に驚かれて、■には珍しく甘い内容だったから貴重なのに、やっぱりオトすのかよお前は!」
「え?らぶー?■?何のこと言ってんのかわかんないよ密っ」
さらに一歩引きながら、都筑が必死になって聞き返す。
「一体何人のお嬢さんに"指輪だと思ったのに〜"って言われたと思ってんだ!!」
と言った途端、都筑が引いていた身を乗り出した。
「え?え?まさか密も期待した?」
「してねぇよ」
底冷えのする声で密は思い切り断言する。さっきのちょっとしたトキメキは、今となっては口が裂けても言えない。代わりにもう一言、言いたいことを付け足した。
「あげく一日遅れといて中身がしょうゆさしだぁ?誕生日小説多しといえど、一日遅れて堂々としょうゆさし渡すお前はここしか居ないぞ?!」
「ややややばいって密、専門用語多すぎ!」
都筑が慌てて手で密を制す。そこでようやく密は我に返った。確かに、自分のセリフにしては業界用語が多すぎだった。
やっと落ち着いて、肩で息をする密を見て都筑はぽんぽんとその頭を叩いた。
「密は読者思いだねぇ」
「お前が外しすぎなんだ!」
さいきんの都筑のダメぶりへの憤りも込めて、密はまた怒鳴ってしまった。
「…ごめん」
そんなに密が怒るとは思わなかったのだろう。都筑はしゅんとして、頭を下げた。
「じゃあ、おわびにもう1個プレゼントするから、許して?」
一日遅れた分、プレゼントもひとつ追加すると言いたいらしい。都筑にしてはしゃれた気配りだ。密は黙って、しょうゆさしを持つ手と反対の手を出した。
「ホントは自分家で使おうと思ってたんだけど」
都筑も、今度は反対のポケットから包みを出す。まったく同じラッピングをされた小さな包み。
密は、手を出したことを心の底から後悔した。
「…何これ」
2度目よりもさらに冷えた密の問い。
「密とおそろいで使いたかったんだけどな〜」
両手に、全く同じガラスの容器。
こうして密は、一日遅れた誕生日プレゼントにしょうゆさしとソースさしをもらったのだった。


…うわ〜読んだ人に殺されそ〜(大汗)


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