日常喜劇

2001年10月22日(月) 一日遅れたプレゼント<後日談・別>


 都筑は自宅のちゃぶ台で一人、頬づえをついていた。
「密、どうしたんだろう…?」
 さいきん密は機嫌が悪い。いつもの無愛想が、いつにも増して無愛想なのだ。それも自分に対してだけのような気がする。
「なんでだろ?」
 都筑は首をかしげた。密の様子がおかしくなったのは、誕生日をすぎてからだった。まさかあの若さで、一つ年食ったくらいでアンニュイになるとは思えない。それとも今年の四柱推命が最悪なんだろうか。
 都筑はもっとよく考えてみた。怒鳴るほどに絶好調な密に、最後に威勢よく怒鳴られたのはいつだったか。
「…あ」
 頬づえから顎が外れた。あの時だ。密に、一日遅れで誕生日プレゼントを渡した時。街のネオンがまたたく高層ビルの屋上。空には星もまたたいて、鼻水が出そうなほど冷たい夜風の中で、なんだか色々派手に怒鳴られた。そう、それが最後に密に怒鳴られた時だ。
「そういえばヘンなこと口走ってたよな…指輪がどうとか」
 言ってから都筑はハッと気づいた。
「まさか密…俺からのプレゼントが指輪だって思ってたとか…?」
 気づいた途端、にわかに動悸が激しくなった。
 まさかまさかまさか。
 残業も手伝ってもくれない、甘味処にも付き合ってくれない、酔っ払って壁に激突した時の鼻血も治してくれないの3ナイ運動な密が俺を好き…?
 いや待て落ち着け麻斗。
 都筑は前に手を出す振り付で必死に自分の考えを押し留めた。
 あの人間不信のワガママボウヤが、女を飛び越していきなり俺に惚れに来るとは思えない。なんと言っても、十代といえばまだまだ女体に興味のあるお年頃だ。
 それより何より。
「…指輪?俺が?」
 ハ・ハ〜ン?
 思わずエセ外人のように鼻で笑ってしまう。都筑は、テンションが上がって酒が飲みたくなってきた。
 …いくら世間が都密主流だからと言って、誕生日に指輪を渡して告っちゃうなんてこっぱずかしい事出来るハズがない。だいたい自分の薄給じゃ指輪なんてとても買えないし、だいいちこれはギャグ話だ。
 都筑は酒を取りに立ち上がった。
 …ギャグと言えばボケとツッコミがいて、今回の俺はどう見てもボケ役だから、指輪を捧げて「結婚しよう密」なんて展開には持って行きようがない。だいいち繰り返すが、この年でソレは身悶えするほど恥ずかしい。
「…ん?」
 食器棚から一升瓶とコップを出し、都筑は天井を見上げた。なんか今、ヘンなナレーションが頭上をよぎった気がしたからだ。
「…で、どうして密は不機嫌なんだっけ?」
 結局思考が元に戻ってしまった。都筑はちゃぶ台の定位置に戻り、とりあえず酒瓶の蓋を開けた。



…明日に続きます!
(もう何やってんだかこのページ)


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