6月の第1水曜の午後、本堂の前の緑の芝生を濡らして小雨が降っている。関東地方は今日梅雨入りとアナウンスされた。家族で揃って本堂中央を向いて正座をする。僧侶が祭壇の前にひれ伏し、儀式に入った。 今日は祖母の13回忌の法事の日、こうしてお寺の広い本堂の中に正座をし、読経の声を聴き、雨の香りを感じ、故人のことを思い出していると熱心な仏教徒ではないのだが自然と手を合わせたくなるものだ。 祖母は12年前、息子2号が生まれるのを待っていたように、まるで入れ替わるようにして96才の生涯を閉じたのだった。その息子2号はもうすぐ12才、時はあっけなく過ぎてしまうものだ。
「何かがおかしい。」そう感じたのは読経が始まり5分ほど過ぎたあたりであろうか。私の耳に先ほど発せられた坊さんの声の断片がこびりつくように残った。
「な〜な〜かいき〜・・・」 「!?」
確かに「七回忌〜」という言葉が入っていたように聞こえた。
・・・あ、また言った。間違いない。
ふと祭壇の前にたててある真新しい塔場を見ると黒々と非常に達筆な筆文字で「七回忌」という文字が!
「なんてこった・・・」私は心の中でつぶやいた。すぐに訂正をしなければと思った私は読経の声に負けないように叫んだ。
「ちょっとまった!」
・・・というのは嘘です。そんなこと言えるわけ無いじゃないですか。 ホントは13なのに・・・、あ、また言ってる・・・。
やがて読経は終わり、一家揃ってお坊さんにお辞儀をする。そして父がお坊さんのそばにそっと近づき小さな声でこう言った。
「あの、13回忌なんですけど・・・」 「えっ!」
ああ、それは失礼しました。直しておきます。と言いながらお坊さん、頭のてっぺんまで赤くなっていて何だかすごく可愛かったです。
でも、7回用のお経とか13回用のお経とか区別は無いんでしょうか?
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