⊂水たまり⊃
2001年08月30日(木)


秋はね、大嫌い。

大嫌い。

どれ程かというと、両手で描いても持て余してしまうくらい。

大好きで、大切なものを連れて来て、僕は。

その闇に溺れた。

秋の中で静かに静かに眠った空と。

創られてゆくその鏡。

僕は溺れた。

空は泣いた?

嬉しいと思ってしまった。

繋がれた場所からなげられて、貴方は僕を迎えに来てくれた。

遠すぎたはずで、もう二度と逢うことは無いと思っていた悪魔。

だけど貴方は僕を傍に置いて、とても淋しくさせた。

凍り付くような足音は、耳から今でも離れなくて。

そして、勝手になげて。

僕が愛した場所は、今は誰のてのひらの中にある?

寒空の下のベランダはまるで、温かい監獄だった。

水銀灯に群がる虫達はそれきりで幸せそうな光の闇に。

我よとばかりに集まっては、ひとのてで道路に堕ちた。

さようなら。

そればかり、僕は心で優しく繰り返す。

けれど僕のあしもとに触れたカタカナの毎日は。

だれも助けてはくれなくて。

僕は迷い込んだその場所で、階段で、新聞紙を千切った部屋で。

今でもあたしの帰りを待ってるから。

僕はもう帰れないのに、この場所で朽ちるのに。

乾いてゆく言葉を殺した毎日の渦の中で。

その部屋へ、あたしに浚われたまま置き去りにした。

大切な約束さえ粗末にして、僕は。

ひとりにして、さびしいでしょう?

ごめんね。

だけど、僕に馳せられた貴方の言葉を、今も見付けている。

その道を通るたびに、泣き腫らした傷で僕を探している。

もう水たまりに溺れないで。

今年もこの季節はやって来て。

僕はまだ何処への道も選べないまま、ひとりきりで在るから。



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由弥 [御手紙]