寝れば恐い夢。 何時も恐い夢ばかり。
夕べみた恐い夢。 あたしがじいちゃんを殺した夢。 事故を起こして、じいちゃん死んだ。 あたしが殺したの憶えてる。 あたしが殺した、そればかり未だに繰り返す。
じいちゃんの死んだ日、今でも鮮明に思い出せる。 暖かい春の初めの早朝、夢の奥で聞こえる電話の音。 ひとつだけ開いていた雨戸。 そつない話し声のあと、お母さんの階段を駆け上る足音。 珍しく、妹よりあたしの方が先に起こされた日。 それだけで本当は満足だった。 そして、叱られても言い返せなかった哀しさ。 億劫に起き上がった時の布団の裾の皺、にぶい朝の光り。 味の無いピザトーストの匂い、慰めに過ぎないテレビの声。 急いだように支度を済ませるまでの、長い長い朝の日。 音無。
お葬式で泣かない代わりに、握りしめていた右手。 誰も気付いてはいなかった、ささやかな強がり。 暗い闇の中で閉じ込めた、思い出が溢れた。 そしてじいちゃんが死んだ現実を、未だ受け入れない躯。 だって在るもの。 いつも、階段を下りて。 庭に向かう砂利の上。 擦れ切った声で、生きていた。 あたしは、じいちゃんを殺したのはあたしだと云われた時。 無意識だった反面、其れに納得していたから。 忘れて仕舞う事に、封印された言葉に。 出口を見失って、予感と共に真実に成りかける。
恐い夢。 何が恐かったのだろう。 息が出来ないほど泣くくらい。 振り解ききれない夢だった。
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