セクサロイドは眠らない

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2004年09月17日(金) 不倫してる友達呼び出してご飯を食べた。彼女笑ってた。あんたがそんなことするなんて、

「ねえ、タケちゃん。タケちゃんたら。」
「んん?」
「もう行くから。」
「ああ。」
「それから、あたし、今日は合コンだから。」
「ん。いい男いるといいな。」

タケちゃんは昨日遅くまで仕事だったので昼まで寝るんだろう。あたしは、25歳OL。タケちゃんは高校の時の家庭教師で、5歳上。もう10年近く付き合ってる。時々、タケちゃんは、職場から近いあたしのところにこうやって泊まっていく。

なんだか、最近迷う。タケちゃんと付き合っていくこと。あたし、本当にタケちゃんが好きなのかなあ。タケちゃんは、あたしと結婚したいとか思ってんのかなあ。

まだ、結婚したいわけじゃない。だけど、最近そんなことばっかり考える。タケちゃんのことはもう、身内みたいなものだから、かっこ悪いとこ見せても恥ずかしくない。タケちゃんも私の前でだらしない格好してても平気だ。これじゃあ、25歳の乙女としてはちょっとまずいんじゃないかと思うわけ。友達の恋愛を聞くと、余計そう思う。会社の上司と不倫している友達は、彼が来てくれない夜は寂しくてあたしのところに電話してくる。辛くて辛くて、なのにやめられないらしい。へえ、と相槌打ちながら聞いてると、あんたはいいよねえ、と皮肉を言われてしまう。

タケちゃん、私も、そろそろ大人の恋ってやつがしたくなっちゃった。胸がぎゅっと締め付けられるようで、会えるだけで涙が出そうに嬉しくてっていうような恋。

だから、今日の合コンはちょっとだけ気合い入れてる。香水もバッグに入れて来た。

--

こんな日に限ってちょっとだけ残業になって、慌てて居酒屋に飛び込んだ時にはもう、みんなかなり出来上がってて大騒ぎだった。少しだけとまどっていると、長身の男性が私のために席を作ってくれた。

その男性は、
「飲み物、何にする?」
と聞いてくれて、店員さん呼んでくれて、注文してくれて。

あたしの飲み物が来たら、
「お疲れさま。」
ってグラス差し出してくれて、乾杯した。

「僕、ナオキ。」
「あたしは、チコ。チカコなんだけど、みんなはチコっていうんですよ。」
「チコちゃんかあ。」
最後まで、彼とずっとしゃべってた。あたしは咄嗟に、恋人はいないって嘘ついた。

別れ際に携帯のアドレスを教えてくれて、でも、あたしのアドレスは訊かなくて、これってあたし次第ってやつ?って思った。

ちょっと心がふわっとした。

恋なんて何年ぶりかな。恋人がいるっていうことと、恋してるってことは違うことなんだ。

帰ってメイクを落として、あたしはフワフワした気持ちのまま眠りについた。

--

どうしようかって、一日悩んだ。それから思い切ってメール打った。こういう時は簡単に。
「昨日はありがとう。飲み過ぎちゃったかも。ナオキさんに会えたから、昨日のコンパ参加して正解だったよ。」
って。

そしたら、すぐ返事が来た。
「僕も楽しかった。チコちゃんを独占できてラッキーだったよ。今度は二人で食事でも。チコちゃんっていろいろと悩んでるみたいだよね。話し相手ぐらいにしかなれないけど、いろいろ教えてよ。」
って。

ああ。タケちゃんと大違い。こちらがいくらメール打っても、10通に1通ぐらいしか返事が来なくて、来ても、「了解」とか、そんぐらいしか書いてなくてっていうのと。

それから、ナオキとは毎日、メール交換するようになった。

デートまで、すごくドキドキした。タケちゃんに悪いと思いながら、最近は仕事が忙しいことにして、ナオキと会った。タケちゃんは、個人で塾の経営してるけど、ナオキはサラリーマンで、会社のことなんかもナオキとしゃべってる方がずっと話が弾んだ。

ナオキにもどうやら長く付き合ってる彼女がいるみたいだった。彼、あまり言いたがらなかったけど。上手くいってないみたい。打ち明けられた時はショックだったけど、正直に教えてくれたことは嬉しかった。私はまだ、タケちゃんのことが言い出せずに。ナオキは、デートの帰り、手をそっと握って来た。
「チコのこと、好きになったみたい。」
「え?」
「彼女いるのに、悪い男だろ?」
「そんな・・・。嬉しいよ。私も。」
「僕のこと、好き?」
「うん。」

こんな照れる会話初めてだ。タケちゃんとは、気が付いたら付き合ってて、好きとか、そんな言葉は一度も言われたことがなかったもん。

ナオキは、私の手をぎゅっと握って、少し足早に歩いた。ラブホテル街の方に歩いて行く時、ナオキの顔はとても緊張しているように見えた。あたしも緊張してた。こんなとこ、来たことないから。タケちゃんと初めてキスしたのは、タケちゃんのアパートで。セミの声を聞きながら。ああ。タケちゃんのこと、今日だけ忘れよう。

ナオキは優しかった。タケちゃんがすることとは全然違った。あたしは、ナオキに合わせるのが精一杯で、でも、すごく嬉しくて。

「帰らなくちゃな。」
汗がひいた頃、ナオキはポツリと言った。

帰りたくない、とは言えず、あたしはうなずいた。

ナオキが携帯のディスプレイ見てるのがちょっと気になった。

「今日はありがと。」
ナオキは私を最後にもう一度ぎゅっと抱き締めて、それから、タクシーに乗せた。
「大事な人だから、無事送ってあげてください。」
と言って。

帰宅すると、タケちゃんはあたしのベッドで寝てた。

「遅かったんだな。」
「ん。友達と飲んでた。」
「そうか。」

タケちゃんは寝返りを打ってまた寝てしまった。ナオキの感触が残ってる体でタケちゃんの横に寝るのはすごくイヤだった。

--

それからは、あたしの生活の中心はナオキで。いつも会えるわけじゃない。ナオキには彼女がいるから。メールも少し減った。彼女にバレそうになったんだって。

不安との闘いだった。

ちょっとやつれたんじゃない?って友達から訊かれた。

これが恋だ。ずっと憧れてたのにね。

思ったよりずっと辛くって。だから、不倫してる友達呼び出してご飯を食べた。彼女笑ってた。あんたがそんなことするなんて、って、でもちょっと嬉しそうに笑ってた。

--

「なに?タケちゃん。」
遅い時間だった。タケちゃんはかなり酔ってた。

ここ数日、あたしは、何度かタケちゃんの電話に出なかった。少し距離を置きたかったから。あたしのアパートを自分の部屋のように使われるのに抵抗したかったから。

「や。ちょっと。」
「すごい酔ってるね。」
「ああ。」

水を持って来て渡した。

「なあ。チコ。」
「なに?」
「俺さあ。チコのこと、好きだ。」
「なによ。急に。」
「チコのどこが好きか、考えてた。」
「うん。」
「チコの泣き顔が好きだ。それから、手の甲のえくぼも好き。・・・。それから、そうだな。チコの妙に真面目で悩むところ。・・・。チコが・・・。うん。お母さんのことすごく大事にしてるとこ。・・・。あと、チコの笑ってるとこ。そうだ。チコが笑ってるとこ見ると、なんかすげえなって。なんでこの子はこんな風にあっけらかんと笑えるんだろって。」
「ねえ。タケちゃん。何なの?どうしたの?突然に。」

あたしは、不安が喉に込み上げて来て、何もかも打ち明けてしまいそうだった。

タケちゃんの言葉が途切れた。見るとタケちゃんは目をつむってたから、寝てるのかと思った。

が、目を開いて。私のほうを見て。
「俺さあ。飽きっぽいんだ。」
「そう・・・。」
「知らなかったろ。」
「うん。だって、山登るのだって、塾だって、ずっと続いてるじゃない。」
「それがさ。結構いろいろやったんだよ。大学の時はサーフィンやってたし。マウンテンバイク乗るのにはまってた事もあったし。でも、ちょっとやると飽きちゃってさ。」
「ん。」
「俺、好きってよく分かんないし、あんまり考えたことないんだけど、ずっと続いてることってあるのな。山とか。人に勉強教えることとか。チコとのこととか。」
「タケちゃん・・・。」

タケちゃんはまた、黙った。

あたしは苦しくてどうしようもなくなった。

「俺、帰るわ。なんか、酔ってるし。ごめんな。」
タケちゃんはフラフラと立ち上がって、行ってしまった。

追いかけてくるなと言われたようで、あたしはそこから動けなかった。

--

翌日、不安で、起きてすぐタケちゃんに電話したけど、タケちゃんは出なかった。その日、何度も何度も電話したけど、やっぱりタケちゃんは出なかった。

夜、あきらめて、メール打ったけど、それでもやっぱり。

次の日も、その次の日も。

土曜日、思い切ってタケちゃんのアパートに行ってみた。塾をしばらく休むという貼り紙があった。

あたしは、そこに立ったまま、泣いた。

タケちゃん、怒ったんだ。あたしのせいで。

ナオキからはその間一度だけ電話があったけど、忙しいから、と切った。ナオキはナオキで、彼女のことで大変そうだったから。いや。そうじゃなくて、多分いろんな女の子と忙しいのだ。本当は分かってた。

ずっとタケちゃんに、あたしのこと好きって言って欲しかった。だけど、好きって言われると、なんだかとても悲しい気分になった。なんでだろう。

--

あたしは、毎日、タケちゃんにメールした。タケちゃんがそばにいたら聞いてもらってたような些細な出来事。タケちゃんがまた、あたしのところに戻る気持ちになった時のために、待ってることを伝えたかったから。

タケちゃんのアパートまで、何度も行った。

いつも、鍵が閉まってた。

--

小雨が降ってた。タケちゃんのアパートのそばの小さな駅のベンチで、あたしは泣いていた。一方通行のメールが悲しくて泣いていた。

その時、頭の上にポンと誰かの手のひらが乗っかった。

見上げるとタケちゃんだった。随分黒くなって、髭だらけだった。

「こんなとこで何やってんの?」
「タケちゃんこそ。」
「俺は、ちゃんと言ったろ。山に登ってくるって。」
「嘘。知らないよ。」
「ちゃんと言ったよ。高校の時の友達と飲んで。それで、急に山登ることになって。で、お前んとこ行っただろ?」
「知らないよ。来たけど何も言わなかったし。」
「そうかあ?」
「ひどい。あたし、何度も電話したよ。」
「携帯置いてったし。」

あたしは、タケちゃんの大きな体に抱きついた。タケちゃんの匂いがした。

「来るか?」
「うん。」

あたし達は、タケちゃんのアパートまで歩き出した。
「ねえ。なんであの時、好きって言ったの?今まで言わなかったのに。」
「ああ。何でだろうなあ。お前が言って欲しそうにしてたからじゃないかな。だけど、言ったら、お前、すごく悲しそうな顔になって。俺も、なんか、言う言葉が違ってるみたいな気がした。」

好きって何だろう。

好きって、時々、忘れてしまうこともあるもの。

好きって、忘れてたくせに、そこに必ず戻ってくること。

タケちゃんの携帯に残された、やたら沢山のあたしからの着信履歴と勘違いメールについては、あたしはこの後どうやって説明したらいいのかしらと、そんな事を考えながらタケちゃんの腕にぶら下がって歩く。


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