「空白の瞬間の扉」
夢を見ました。酷く懐かしくいとおしい。亡くしたひとの夢を見ました。髪の色まで鮮明に色付いた夢。過去の記述を編集していたせいですね。きっと。 何一つ忘れてはいないけれど思い出す瞬間はどんどん少なくなっている。それを否めない。そういう罪悪が囁いた声だったのだしょうか。 「わたしが居た事をわすれないでね」彼女は最後にそう言って微笑みました。 目覚めて泣きました。久し振りの涙に咽喉と胸の奥がとても熱かった。 なにも変わらない。なにも変わらないでいる。けれど変わってゆく。あの時のままの記憶を擁き続けながら今を生きるわたしに、空白がどんどん拡がってゆく。時折、自分の海馬の中にあるその扉をそっと叩いてみる。血を吐くような慟哭を伴うでもなく、まるで羽毛に触れる手前のあの柔らかな感触をその記憶に感じ取るように。 今でもあたため続けるのはあなたを亡くした、という現実ではなく、あなたが生きていた、という事。それに救われている。忘れるはずもないよ。 |