stray notes

氷砂糖

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あなたのピアノが聞きたいです。
2003年07月25日(金)

13時過ぎ。夜は飲み屋だが、昼はランチを出しているお店で食事をしていた。ふと、店内にかかってる音楽が心地好いな、と思った。家では大体巷で流れているような、人の声入りをかけているのだが(最近までt.A.T.u、今はあゆの&)。クラシックもいいものだな、とぼんやり思う。ピアノの音が、心身にやわらかく浸透していく。でも……ピアノなら、あのひとがいちばんだったな、と思い出す。

中学校の集会。わたしはスピーチコンテストで入賞したため、いつもとは違う席にいた。賞状をもらったあとも、楽屋のような場所にいた。「彼」もそこにいた。彼はどこかのピアノのコンクールで優勝した、のだったと思う。表彰されたあと、1曲弾いていた。すごく綺麗だった。わたしはあれほど素敵な演奏を、後にも先にも知らない。真珠が転がっていくような、海がそれを追いかけるような(変な比喩ですみません)、広がりと清澄さを感じた。彼はにこにこしていたわけではないが、演奏することがとても気持ちよさそうで楽しそうだった。1曲しか聞けないのが残念だったし、その1曲がとても短く思えた。それほど心身に心地よかった。

甘い顔立ちのハンサムだった。先生方も敬意をもって接していたし、彼の立ち居振舞いや表情や雰囲気は、大人と対等で自然だった。一緒にスピーチコンテストに出ていた先輩が、吐息混じりに教えてくれた。「○○くん、凄いよね。彼、ほんとはわたしたちよりずっと英語上手いのよ。海外公演とかたくさん行ってるから」と。わたしはそういった世界にはうといので、それがどの程度のものなのかはわからないし、そんなにすごいならなんでこんなフツーの公立中学にいるんだ? とは思ったが、軽く微笑んで会釈して、席に戻った彼は、たしかにとても育ちがよさそうにみえた(それなりに挫折したり壁を乗り越えたりした芯の強さはありそうだったが)。

名前も覚えいていない。曲名もわからない。今も彼がピアノを続けているかだってわからない。でも、聞けるものなら。多少高くても、聞きに行きたいな……と思う。あてもなく唐突にそんなことを思い出す、わたしは疲れているのかもしれないが。



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