stray notes

氷砂糖

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あたたかな音
2005年01月10日(月)

近所の奥さんは声が大きい。よく笑う。そして夜型だ。つまり、夜、そろそろ寝ようかなーと思った頃、TVらしき音に大受けして大笑いしてる声がよく響く。最初の頃は「うーん」と思っていたが、今ではもう慣れてしまった。そしてもうじきここを引っ越すので、もう声や物音ともお別れなんだなーと思うと、ほのかに淋しい気がしないでもない。

会話を交わしたのは数回なので、実を言うと顔もよく覚えていない。たしか「すみませんねぇ、いつもうるさくて」「あ、いえ、うちもうるさいときありますし」とか、「あの、この落ちてた洗濯物は」「まあやだうちのだわーごめんなさいねー」程度しか話した記憶がない。それでもこどもがふたりいることや、どうも夏はエアコンでなく窓を開ける派らしい、くらいはなんとなく知っている。

わたしはずっと一軒家に住んでいたので、集合住宅は人付き合いが大変なんだろうなーやだなーこわいなーと思っていたが、ハイツレベルだとたいして関わりはない。そして夫がなかなか帰ってこない夜などは、奥さんのたてる物音や声には、なんとなくひとりじゃないんだなーと思えて、そばに誰かがいる、というのはいいなぁ、と思ったりする。もちろん現実問題、今強盗がこの部屋に入ってきたところで、そのひとたちが助けてくれるか、といえば難しいだろうけれど。実家にいたころは誰かしら家にいたので、ひとりが苦手なのかもしれない。

またこの奥さんが、裏表なさそうなひとで、昼間の長電話の雰囲気も、いつも明るく楽しそうなのだ。家族と喧嘩をされていることもあるが、こころがこおるような、関係を断ち切ろうとするようなものではなく、根底にある愛情は揺るがない、どこかあたたかな叱咤に聞こえる。彼女には彼女なりの悩みや苦しみもあるのかもしれないが、あまり深刻な、変な不幸にははまらないような感じがある。わたしは自分がどこか地に足のついていない、生活能力が弱いタイプであるためか、そういうひとがいると、なんとなく心強いような、生きることがそんなに難しくないような気がしてくるので、うっすらひかれてしまうようなところがあるのだ。

おそらく引っ越したら新しい環境になれ、すぐに忘れてしまうのだろうけれど。



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