2001年06月25日(月) |
愛着のある靴。ある雨の日。 |
愛着のある靴というのは、なかなか手放せない。 たとえ、どんなにくたびれても。 ある雨の日、営業に出かけた田舎の地で、ついに、我が愛する靴底から、水が浸入し始めた。気が付けばそんなになるまで、履いていたのだ。
田舎には、信じられないような店が存在することがある。 こんな所で儲かるのだろうかという店。 私が見つけた靴屋も、そんな感じの一軒だった。 しかし、ちょっとガマンできない雨漏りに耐え切れなくなって、大丈夫かなと思いつつも入ってみた。 戸を開けて入る。ピンポーンというチャイムの音。ん?ピンポーン?。 しかし誰も出てこない。なんか、泥棒にでも入るような気分だ。 しばらくして、奥から声が。「ハーイ。ちょっと待っててね」 感じとしては、近所の人が回覧版を持ってきたような親近感のある声。 人のよさそうなオバサンが一人出てきた。 「こんにちは」勤めて明るく言う。 おばさんの顔がこっちを伺っている。「この人どこの家の人だったかしら」。 あきからに、自分の記憶の中をさまよってる顔。 「ちょっと見せて下さいね」。そういうと、おばさんは「あっいらっしゃいませ」と、途端に顔がこわばってきた。 おばさんが緊張したのがわかる。それをみてなんだかこっちまで、緊張してきた。 歩き方もどこかギクシャクしてくる。 改めて店内を見回す。この靴いつからここに置いてあるんだろうという感じの靴が何足も並んでいる。しかも、みんながみんなか結構高い。 しまった。そう思ったときはもうすでに出にくい状態に陥ってしまった。 何年ぶりかの一元さんのお客なのだろう。おばさんもどう対応していいのかわからない様子で、オドオドしている。 狭い店内に切迫した緊張感が走る。随分長い時間と思われる時間が流れる。 私は意を決して、中の一足を選び、これの25.5はありますかと聞く。 え、あっはいちょっと待ってください。棚の上によじ登るようにして、サイズを探すおばさん。 あーありましたよこれですね。 試着してみる。なんか、一刻も早くこの店を出たい気持ちに駆られて、いいかげんにこれ下さいと言った。 ありがとうございます。 お金を払った。このまま履いて行きますので箱はいいです。 と、おばさんの返事は、 今日は雨だから、やめたほうがいいですよ。もったいないから。 そう言って、丁寧に箱に入れて、包んでくれた。
そうですね 私も説得されている。 はい、ありがとう。そう言って手渡された新しい靴を袋にいれたまま、その日一日、 雨漏りのするお気に入りのくたびれた靴で過ごしてしまったのでした。 そして、次の晴れた日に、おばさんの言うとおり、新しい靴をおろした私でした。 なにやってんだか。
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