2003年10月21日(火)
やっと取り戻した実感に縋らずにいられるようになるまで
よしもとばなな『ハゴロモ』を読んで、どことなくほっとする。 別に私は長年付き合った愛人に別れを告げられたわけでもなく誰か近しい人を亡くしまくっているわけでもなく田舎に帰ってきているわけでもないのだけれど、何かを一心に思い詰めるようにのめり込んでいた、生活の全てだったモノから離れた、という感覚が近いように感じたのだ。 ある意味、研究していく・働くというコトは毎日の支えになっていたモノで、それから離れるというのはとても心細かった。私は退職と能力の限界という判断からソレから離れ、結婚生活に移行したワケなのだけれど、結婚後、本来なら毎日がハッピーもうどうしましょう!なはずなのに、どちらかというと私は連日の微熱と蓄積した疲れ、何より「自分にはできることが何もない」という不安と焦燥で一杯一杯だったように思う。どこか「逃げ出した」という感覚がとれなかった。 自分自身には懸命に「休むことだ、これは必要なことだ、ゆったりとしたきちんとした生活をできるようにするんだ」と言い聞かせていた。多分、毎日どこか疲れた顔をしていたのではないだろうか。夫が心配するはずだ。働いていた頃からずっと心配していた夫に悪いことしたな、と思う。 今は素直に、これは望んだ結果だということが分かっているし、今はだらだらすぎだろうけれど少なくとも当時は私にとって無理だらけの日々だった、ということも自覚している。勿論、当時の私にとってはそれが必要だったと思っている。無理をしないと「無理しすぎるとどこか壊れる」ということも実感として分からないのだから、トータルでみると必要だったとも思う。 現在の状況に対して、以前のような焦燥感や不安感はない。これで今はいいのだろう。
大学。就職活動の話がちらほら囁かれるようになった時期、周囲の話に背中を押されるようにしてやっと私は「ああそうだ、私は院に進んで研究をしたいと昔から考えていたんだった」ということを思い出した。それまでも頭の中に文字としてはあったのだけれど、その頃ようやく、それが自分の中で感触を取り戻した。 何とも言葉にし難いのだけれど、当時の私は空っぽだったのだ。将来がある、ということが実感としてなかった。毎日、ぼろを出さないように、この空洞を誰にも…特に家族に見せないようにすることで精一杯だった。それなりに楽しく人と関われるサークルと、頭を使うが何も考え込まずにいられるバイトを熱心にこなしていた。それで毎日が過ぎた。 恋愛をしていたこともあったけれど、その相手は空洞化を促進する結果を残した。その恋愛にのめり込むことで忘れようとしていた、そんな私が悪かったのだろう。けれど、当時はそんなに深く考えていられなかった。 当時、どうでもいい人間に空洞を少し見せられる、というのも我ながら不思議で面白かった。それはお互いにどうでもいいからだということ、けれどもしかしたらこの空洞を埋めてくれる人がいるかもしれないとほんの少しだけ期待していたことも、うすうす分かっていた。 どうでもよかった。いや、どうでもいいという投げやりな感覚ではなく、単に何もなかったのだ。
そんな中で思い出した将来への感触。周囲の変化に押されて・ぼろを出さないためという理由でも、やっと思い出したのだ。 これに縋った。自分の将来が存在する、ということに感触が持てた。自分で実感できた唯一のこと。遅まきながら受験勉強を始め、就職活動は一切しなかった。他大学を受験したが、もし落ちてもそのときの大学の院には進学できるだろうという見込みがあった。とにかく研究の方面へ。やっと取り戻した実感へ私は一直線だった。 実際には、以前より集中力が低下していたりしてなかなかよい成果を上げられたわけではなかったのだけれど、それでもどうにか希望大学院には合格した。その結果が更に自分を視野狭窄にした。私は、希望した方向以外の方向性を全く考えなくなっていた。 能力がない、ということが分かっていても離れられなかったのは、多分この、これまでの経緯だと思う。やっと取り戻した感触を手放せなかったのだと思う。
空っぽな状態でなくなったわけではないだろう。多分、それはどこかに必ずあって、一生ついてまわるものだと思っている。けれど、時間と経験が焦って逃げ出そうとする私を落ち着かせたし、何より、夫が認めてくれている。夫の存在が大きいことはとても確かで、頼ったままではいけないのだけれどそれでも今はまだ頼っている状態だ。 今は少なくとも無理しないでいられるようになった。焦燥感はまだあるにしても、それにくらくらと惑うことは少なくなった。少しずつではあるのだろうが、そうやって確かな生活をできるようになればと思う。
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