読書日記

2001年10月18日(木) 「クィン氏の事件簿」を読み、納得する。

「クィン氏の事件簿」を読み、納得する。
 昨日新たに買ったクリスティの「クィン氏の事件簿」(創元推理文庫)の一つ目の物語「クィン氏登場」を読んだ。少し前に早川文庫版の「謎のクィン氏」でも読んだ話をもう一度読んだことになる。本のタイトルは違っても同じ短編集である。何も同じものをま読まなくてもいいではないかと言われそうな行動である。
 前にも書いた通り早川文庫版では昔の抱いたはずの感興が全く湧かなかった。そのことに得心がいかなかった。かつての感銘はなんだったのか。本当に過ぎ行く時がこの物語集を風化させたのかと。または、自分の方が変わってしまったせいなのかと。
 昔読んだのは創元推理文庫版だった。
 探せば物置のどこかにあるはずの本を探すのが手間なので古本屋で買うしかないと考え、実はこちらの方が手間だったのを、やっと捜し当てて読んでみた。
 結論は、話がわかりやすかった。わかりやすくて、その上ちょっとした感動と感心もそこには残っていた。
 文章が何か込みいっていて、表現されていることがらの理解を少し妨げているのが、早川文庫版だった。創元推理文庫版はよく整理されていて飲み込みが早くなめらかに進むので、すっきりと読めた。
 これは好みの問題だからどちらが良いかという結論は出ない。自分にとって、の問題である。
 クィン氏の物語が復権を果たして、ほっとした。

 中村真一郎の文章は無駄がなく、どこをとっても考え抜かれた鋭い文章である。
「小さな噴水の思い出」(筑摩書房)の第2章の題は「人間性回復の時代に」である。
「あと十年足らずで始まる新しい世紀は、ぜひ人間に人間性を回復するための時代となってほしいと思う。それまでの十年のあいだ、個人は小さいともしびを、それぞれの心のなかにともして、世界の激しい風のなかに光りを守りつづけたいものだ。」
 純粋かつ純真な文学者は浮世離れした生活を送っていると思いがちだが、全くそれは間違いの極みである。
 鋭い批評眼・意識的かつ強靱な精神が日本を含めた世界の動きを見つめていた。

最近購入した本は以下の通り。
エヴァンス「天使がくれた時計」(講談社)
笹本祐一「天使の非常手段RIO1」(ハルキ文庫)
ディレイニー「ノヴァ」(早川文庫)
ステイブルフォード「地を継ぐ者」(早川文庫)
山根一真「メタルカラーの時代5」(小学館文庫)
光原百合「遠い約束」(創元推理文庫)


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