| 2001年10月17日(水) |
中村真一郎「小さな噴水の思い出」をちびりちびり・・・ |
中村真一郎「小さな噴水の思い出」をちびりちびり・・・ 1991年と1992年に作者が書いた読書についての短文集で、全100編、二年間の記録である。短い四行程度の推薦文から芥川龍之介の六ページの解説文まで筆者の多彩さの展覧会と言ってもよい。この手の本は新潮社から出すことになっていたはずなのに、これはなぜか筑摩書房である。 1番目は「『とりかへばや、男と女』を読みながら」で、臨床心理学者河合隼雄の本を取り上げている。現代の日本人が書いた本はほとんど読むことはないはずで、読んだとしても失望しか経験していない筆者が珍しく褒めている。 「読みごたえのある本と同時に、読み疲れのする本であった。」と述べ、さらに「王朝物語を、私のように深層心理の表現の方法への手掛りとして利用している作家は、他にはひとりもいないだけに、特にこの分析は我が意を得たものとなった。」と嬉しさも表明しているのも稀なことである。 余程充実した気持ちが得られたのか、この短文の結びは美しく終わる。 「そして、最後にモーツァルトが自分の交響曲を『一瞬のうちに聴く』と言ったという体験の紹介は、思いがけない喜びを私に与えた。私もまた千枚にあまる長編小説を、その発想の際、一瞬間のうちに全体を細部に至るまで、眼前に見通してしまうからである。それを実際に原稿用紙に書きとるには、数年を要するのであるが。」 孤高のランナーが思いがけない並走者に邂逅したような喜びがある。 この短文集の拾い読みはなぜか楽しい。筆者の高い精神性に感化されるのか、その文章の表現力のためか、興味・関心のうすい分野の本への言及も面白く読める。 こういう本を読むと時代小説なんか、何だ、そんな気分にもなる。 鳥羽亮の文庫本の解説はどれも激賞だった。同じ本の中で褒めないわけはないが、揺るぎない自信に満ちた解説にあうとやはり信じたくなる。 最近購入した本は以下の通り。 パトリシア・ハイスミス「リプリー」(河出文庫) 山田風太郎「死言状」(角川文庫) アガサ・クリスティ「クィン氏の事件簿」(創元推理文庫) 辻邦生「江戸切絵図貼交屏風」(文春文庫) 鳥羽亮「首売り(天保剣鬼伝)」(幻冬社文庫) 佐藤泰正「驚くべき速読術」(知的生きかた文庫)
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