読書日記

2002年01月20日(日) 芦辺拓「時の密室」はダイナミックな大阪物語である。マキューアン「夢みるピーターの七つの冒険」を6ページほど読んでみた。

芦辺拓「時の密室」(立風書房2001.3.5)はダイナミックな近代大阪物語である。明治初期、昭和、現代という三つの時代の事件がすべて密接に絡み合って大団円に向かっていくという胸のすくような構成になっているのが特色。
一つの重要な役割を果たすのが水上アクアライナー。大阪城公園から実際に乗ってみたが、作者の説明・描写の通りであった。この時期に乗っても目立つのは川岸に並ぶ青いシートばかりでかろうじて大坂城が救いの主となっていた。物語は春のことだから桜並木などでもう少しはなやかなはずだ。
前作の「時の誘拐」同様に大阪の歴史と大阪そのものが主人公である。決して良くは変貌していっていない大阪という街に対する哀惜の念を根底に秘めながら現実の大阪をリアルに描写し、しっかりとした物語を構築していく作者の手腕は敬服に値する。
もちろん、意外な解決や結末を含めてトリックと人物描写も出色の出来である。
俄然次回作が楽しみな作家となった。
イアン・マキューアン(訳=真野泰)「夢みるピーターの七つの冒険」(中央公論新社2001.11.7)を6ページほど読んでみた。7つの話の前にある「ピーターはこんな子供」の最初である。ピーターは十才の少年で大人から「むつかしい」子供と見られている。一人でいることが多く呼ばれてもなかなか返事をしないから。単に空想に耽っているだけなのだが、大人にはわからないのである。
印象に残る文章が多いのが特色。これだけしか読んでいないのにこんな文章が目についた。
「ひとりでいるということについても、大人はあまり喜びません。ほかの大人がひとりでいることさえ、喜びません。みんなといっしょになってくれれば、そのひとが何をしようとしているかわかります。みんながしようとしていることを、そのひともしようとしているのですから。」(15〜16ページ)
このこのつづきはいつよめるかわからないが、きたいしてよさそうな本である。


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