2005年03月01日(火) - Everybody's got a hungry heart...
場所:京都駅付近居酒屋
登場人物:A♂ (映画監督、演劇作家、演出家、インチキ坊主)
:B♂(役者、殺陣師、焼き栗屋アルバイト)
:C♂(インチキカメラマン、インチキ映画監督)
○ 居酒屋。
平日の夕方、客は良く入っている。
サラリーマンの団体客、OLのグループ、アベック等々。
隅の小さな座敷席に 3人座っている。
窓から京都駅の建物がよく見える。
3人それぞれ中ジョッキの二、三杯飲んでいる。
A 「パッチギみてきたで」
C 「やめてや、見てへんから話さんといて」
Aは他人が見てない映画を、詳細まで語るのが喜び。
Aは容赦なく語り始める。
B「明日見に行くんですよ、止めて下さい」
C「明日は仕事ちゃうの? 切られるんじゃないの?」
B「いえ、久しぶりの休みです。それに最近は現代劇のTVにも出てますよ」
C「へぇ〜、どんなん?」
B「警官です。すぐ撃たれますけど」
C「ハハハ、同じやん。武器が違うだけで」
B「まぁ、そうです」
A「それで、パッチギやけどなぁ」
C「もうええ、ちゅうねん」
A「脚本も読んだんやけど、クドカンやったらあんなベタなんはやらんやろうなぁ」
B「本当に止めて下さい」
A「キレがないねんけど、何かラストでは泣けてくるねん」
C「終わりの頃の馬場のプロレスみたいやな」
A「Cさん明日行きましょう」
C「そうやな」
A「どうせヒマやし」
C「いやー、フィルムが全然整理できてへんからなぁ」
A「やる気がないから」
C「ハハハ、まぁ、そう言うな」
ビールから焼酎へ。
夜も更けてきた。
C「あっち関係はどうなん?」
B「さっぱりですね」
C「あれ? 高校生と付き合ってなかったっけか?」
A「ホンマか!」
B「違いますよ。捕まりますよ。大学生です」
C「大学生は良いのか?」
A「俺が許さん」
B「もう、終わったから良いんです。Aさんはどうなんですか?」
A「俺か・・・」
C「なんじゃ、その間は」
B「もう、いいですよ触れないでおきます」
A「もうどうでもいいねん、セックスもそんなにしとうないし」
C「相手がいなきゃね」
A「この前なぁ・・・」
B「ちょっと待って下さい、その話長いんですか?」
A「まぁ、聞け」
Aに「付き合って下さい」と言った奇特な女性がいた。
ある日、その娘を乗せてAは車を走らせていた。
A「あの街道沿いにしょぼいホテルあるやろ?」
C「うん、河の側やろ」
A「そこ入ろう思て、ハンドル切ったら、女の子が『私、車から飛び降りますよ』と言いよって、ホンマにドア開けてん」
B「ハハハ」
C「どうしたん?」
A「そんなん、怪我したらあかんやん、素直に帰ったわ」
B「ハハハ」
A「笑い過ぎやろ」
C「ようわからんなぁ、付き合ってたんやろ?」
A「うーん、返事もしてへんかたから、付き合ってるとは言えんかもな」
B「ヤルだけやろうとしたんですか?」
A「それがようわからん。飲んでなかったし。ええ感じでドライブしてたんやけどなぁ」
C「そのホテルの前で急にムラッとしたん?」
A「ああようわからんのや。スプリングスティーンよ! 俺のこの気持はどのアルバムの何番目に入っている?」
B「でましたね、スプリングスティーン教」
C「もう会ってへんの? その娘とは?」
A「おうてへんねん、まぁ別に、しょうがないけど」
Aはその後スプリングスティーン様の能書きをひとしきりぶって横になった。
C「まいったなぁ」
B「いつものことですけど」
C「仕事は順調なん?」
B「仕事はあるんですけど、収入が・・・」
C「年金とか貯金とかは?」
B「僕にそんなことを聞かないで下さい」
C「万が一長生きしちまったらどうするよ」
B「どうしましょう」
C「そん時はみんなで一緒にどっか静かな所に住もうや」
B「それって、前にも話してませんでした?」
C「そうか?」
A「・・・もう一件行こうか」
C「何処行ねん?」
A「王将いこうや」
B「何しに行くんですか! もう何も食べられません」
○ 京都駅
京都駅周辺の照明は暗い。
人は多いのだがその表情までは見えない。
3人それぞれの改札に向かっている。
Cがカメラを取り出してAとBをこっそり撮る。
C「ちょっとピンボケで暗くて手ブレで、ちょうど男前に写るやろう」
バシャ!