気まぐれ日記
DiaryINDEX|past|will
いや、長くするつもりないし。ちょっと家庭的な雰囲気も書きたかったのよね。あ、そうそう、友人にがいうには森親子は「人間レベルの極悪人」であり、真の極悪人をかけと言っています。まだまだ草は青いです。
ある日、ふと、井上が言った。 「そういえば、うちの妻がね、この小説が好きだって言うんだ」 かばんをがさごそと探り、一冊の文庫本を出した。 「ふうん」 夏目は興味なさげにそれを見た。「妖精たちの宴」とタイトルがあり、著者・木野由貴子と。 「本ってさあ、贅沢品なんだけどね」 「それをいうならうちの妻は贅沢品を作っているんだよ」 「まあ、俺も似たようなもんか」 贅沢品といっても、高いものではない。だから好きな本だけを集めるのは珍しいことではない。 「そういうこと。でね、妻がこれを漫画にしたいんだって。ところがね、この作家さんに何度かお願いしているんだけれども、編集者の方で断られるんだってさ」 「ふうん」 「これは新刊だから妻の土産」 井上は本をかばんにしまった。コーヒーを一口のみ、渋い顔を作る。 「セリナ、また間違えたんだ」 「夏目さん、自分のカップだけでも別にしたら」 「そうだな。これ以上犠牲になることもないし」 コーヒーを取り替えて夏目は、なんで気づかなかったんだろうと、ちょっと反省した。 「……あのさ、井上さん。奥さんの作家名は?」 「え、ああ、妻は本名をそのまま使ってるよ。井上美並って」 「んじゃ、これからやることは、奥さんに内緒だからね」 夏目が電話の受話器をとった。めったにかけることがない電話のダイヤルが押される。 「あ、もしもし。天藤さん? 夏目だけど」
井上が帰宅したとき、美並が上機嫌で迎えた。 「どうしたんだ?」 「それがね、あなた。さっき電話があってわたしがずっとあこがれていた小説の作家さんが、私の漫画を見て、ぜひ自分の作品を漫画にして欲しいって」 「へえ、よかったじゃないか」 「編集者さんが、イメージの問題があるから直接作家さんとは顔をあわせることはないでしょうって。それでも、よかったらだって」 「ああ、もう、天にも舞う気持ちってこんなのなんだろうなあ」 「あ、そうだ、これお土産」 「あら、新刊。由貴子さんってどんな方かしらね」 「さあ」 井上はあいまいに笑った。
|