気まぐれ日記
DiaryINDEX|past|will
今日の営業はこれが終わったら終了です。 ぎこちなく挨拶し、ぎこちなく歩く。彼女は奇妙に思いながらそれを見た。人間も魔法が使えるようになったのかしら、と思った。でも、下手だとも思った。自分たちならもっと人間らしく動かせる。 「これなら使えるかもしれない」 彼女はその中に入った。 「こんにちは、セリナです」 自分の名前を名乗りたかったが人間には発音は無理だからセリナと名乗った。この男の混乱も少ないだろう。 しかし、彼女に予期せぬことが起きた。このドールのプログラムに巻き込まれて自分の思うように動かせない。ドールの情報がどんどん彼女に流れていった。 「な、なにこれ!」 男にはセリナが言ったようにしか聞こえなかった。 「どうしたんだ、セリナ?」 「いやあー! やめて! 目が回るー!」 ぱたん。セリナが倒れた。強制的にスイッチが切れたのだ。そうなっても彼女はセリナを動かせない。そして、ここから出ようにも出れなくなった。 「……大変だ! 井上さん!」 男が慌てて井上を呼んだ。何が起こったのか男も井上もわからず、とにかく納期に間に合わせるためにセリナを調整した。 そして、彼女はプログラムに合わせて動くようにした。そうすると、自然に動けるようになった。少々不便だが、慣れるまではそうしたほうが良いと彼女は思った。 「さあ、これであの社長のもとに送れるな」 「幸せになってくれよ、セリナ」 「変なことに使われないでほしいな、セリナを……」 どうやら自分は、どこかにやられるらしい。そう思った彼女は、プログラムを振り切って逃げ出した。もちろん、誰にも気づかれないように。 走って歩いて走って。奇妙な目で見られながら彼女は、町の中をさまよった。しかし妖精ではなく、セリナとして存在することによって彼女は忘れられていないため、存在することができた。何時間も歩いているうちに、雨が降った。 「きれいな雨……」 何十年前、一度目覚めたが、酷いものだった。いろいろな臭いがする「化学物質」が混じっている雨だった。 しかし、今の雨はきれいだった。思い切って通る人々に聞いてみた。 「今の雨ってきれいですね。なぜなの?」 「はあ?」 急な質問に答えられる人はいなかった。何人か後に、「法律ができたんだ。汚染されたものを空気中に流すなってね」と答えた人がいた。 彼女は納得した。いつまでも人間はバカじゃないとも思った。暗くなりかけていた。どうしようか、迷っていた。立ち止まると、駆けてくるものがいた。男だった。自分に気づき、こちらを見た。やさしそうだった。自分を見て困ったような顔をする。でも、彼女はお構いなしに思った。この人間についていこうと。
|