Mother (介護日記)
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何かを頼む。 聞こえない。 もう1度、言う。 聞こえた。 返事をした。 取りかかろうとする。 何をすれば良いのか忘れる。 聞いて来る。 もう1度言う。 返事をする。 途中でまた忘れる。 また聞きに来る。 また言う。
イライラして来る。 何も頼まなければ良い。 それでは生き甲斐もなくなる。 たぶん動かなくなる。 次第に邪魔に思えて来る。 きっと部屋にこもりきりになる。
仕事で疲れる。 家ではまったりしたい。 爆睡する。 でも、どこかで気にかかる。 『誰か薬を飲ませてくれただろうか?』
食事の支度ぐらいできればいいのに。 洗濯機ぐらい使えればいいのに。 乾いた洗濯物ならたためばいいのに。 自分の部屋ぐらい掃除すればいいのに。
今日は仕事に行きますよ。 今日はゴミの日ですよ。 今日は検診ですよ。
洗濯物を干して。 食器を洗って。 お米を研いで。 缶のゴミを外に出して。 新聞を入れて。 薬を飲んで。 手を洗って。 日記を書いて。
しないで欲しいことを注意する。 翌日にはまた同じ事をする。 また注意する。 補聴器をしていない。 通じない。 返事はする。 さっきと同じ事をまたやる。
紙に書く。 貼りつける。 日記に書く。 カードを作る。 目の前に置く。 口に出して言う。
でも、また同じだ。
私が起きて部屋をのぞくと、待ってましたとばかりに『おはよう』 パジャマのまま、お布団に入っている。
家族が起きれば、キッチンは戦争状態になる。 なぜなら、うちには洗面台がない。
その戦場に、のそのそとやってくる。 出勤前にこれほどイライラすることはない。
起きたら先に顔を洗って。 そのあと、着替えて。
「それじゃ、明日からはそうするね」 明るく言うけど、やっぱり同じなんだよね・・・
言っても仕方ない。 だけど、不満は不満。 理解しようとすれば、自分の気持ちが犠牲になる。 仕事でも、家庭でも『良いコ』なんてやっていられない。
休みは母と向き合って、 外のお天気の良さをうらめしそうに ただぼんやりと、時間の経つのをじっと待っている。
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