Mother (介護日記)
IndexYesterdayTomorrow


2002年03月11日(月) はかなきもの

銀行は朝から混雑していた。
ロビーの私はお客様に囲まれるような形で、常に1度に5人ぐらいを受けていた。
窓口なら一人づつお呼びして受けられるので、私はカウンターの偉大さを再確認していた。

何時頃だったろうか。
「こんにちは」とやってきた女性二人。
お一人は、つい最近お会いしたような・・・

入院中のHさんのお嬢さんだった。
「いらっしゃいませ」と答えながら、気が付くと彼女は全身黒の洋服を着ていた。

「母、亡くなりました・・・」

「え!」

ごった返す店内のロビーで私は大きな声を上げてしまい、とたんに涙があふれてきた。

上品で優しくって、いつもゴディバのチョコレートを持って来てくれた。

ロビーを移動する時には、いつも私の手を握ってくれた。
それは、痩せてはいたけど、柔らかさを感じる温かい手だった。

あれは、ボリビアにいて10数年間会えなかったお嬢さんの事を思ってのことだったろうか。

つい、このあいだまで元気にいらっしゃっていたのに・・・

母のことを気遣って「あなたも頑張ってね」といつも支えてくれていたのに・・・

先々週、Aさんと一緒にお見舞いに行った時に「また来ますからね」と約束して来たのに・・・

お嬢さんのお話では、最後はかなり辛かったようなので、
むしろお会いしなくて良かったのかも知れない、と自分に言い聞かせた。


店内は、感傷にひたる間もなく混み合っていて、私は次々にいらっしゃるお客様の応対に追われた。


IndexYesterdayTomorrow


ALLURE  ☆ MAIL

読んだら、押してね ↓ 

My追加