Mother (介護日記)
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銀行は朝から混雑していた。 ロビーの私はお客様に囲まれるような形で、常に1度に5人ぐらいを受けていた。 窓口なら一人づつお呼びして受けられるので、私はカウンターの偉大さを再確認していた。
何時頃だったろうか。 「こんにちは」とやってきた女性二人。 お一人は、つい最近お会いしたような・・・
入院中のHさんのお嬢さんだった。 「いらっしゃいませ」と答えながら、気が付くと彼女は全身黒の洋服を着ていた。
「母、亡くなりました・・・」
「え!」
ごった返す店内のロビーで私は大きな声を上げてしまい、とたんに涙があふれてきた。
上品で優しくって、いつもゴディバのチョコレートを持って来てくれた。
ロビーを移動する時には、いつも私の手を握ってくれた。 それは、痩せてはいたけど、柔らかさを感じる温かい手だった。
あれは、ボリビアにいて10数年間会えなかったお嬢さんの事を思ってのことだったろうか。
つい、このあいだまで元気にいらっしゃっていたのに・・・
母のことを気遣って「あなたも頑張ってね」といつも支えてくれていたのに・・・
先々週、Aさんと一緒にお見舞いに行った時に「また来ますからね」と約束して来たのに・・・
お嬢さんのお話では、最後はかなり辛かったようなので、 むしろお会いしなくて良かったのかも知れない、と自分に言い聞かせた。
店内は、感傷にひたる間もなく混み合っていて、私は次々にいらっしゃるお客様の応対に追われた。
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