バイトの時、携帯電話はロッカーに入れた鞄の中。 彼には『ダセッ』とかイライラしながら言われたけど、 仕事中に自分宛のメッセージは読みたくない。 だって返事できない。 すればいいと彼なら言う。でも授業中だって携帯切っておくでしょ? 授業中よりバイト中の方がマジメにしなきゃ。 だって授業にはこっちがお金払ってるけど、バイトはお金もらってるんだもん。当然。 お金の大事さは正直まだ分かってないと思う。 でもお金をもらうのは好き。自分で働いた自分のお金。 学校行くより、バイトしてる方が好きだって言ったら、友達なくすかな。
よくあるハンバーガーショップ。 でも制服は割合カワイイ。好き。 イヤなお客さんもいる。イヤな先輩とかも。 でもこの間、大学生くらいの男の人にオツリ渡した手ごと掴まれて怖くて頭止まったら、次のお客さんが「まだ?急いでるんだけど」って言ってくれた。
嫌なお客さんは舌打ちして離れて行ったけど、まだこっち見てるのが分かった。 そうしたら、次のお客さんは色々、新しいメニューの味とかセットメニューに付くものとか質問して、それに応えているうちに落ち着いてきて、ようやく決まったオーダーを復唱した時には、嫌な視線は消えていた。
嬉しかった。 アタシはちゃんと覚えてる。 そのお客さんは土曜か日曜のシフトになると、時々見かける人だ。 アイスコーヒーと、時々フレッシュバーガー。 いつも同じオーダーしかしない。 本を開いて、ゆっくりと座っている人。
今日も来てる。 珍しくお友達と一緒だ。 同い年くらいの男の人。きっと社会人。いくつくらいだろう? 恋人とか、いるんだろうか? でもお休みの日に、男の友達とお茶してるならいないかもね。 お友達はカッコいいタイプだ。 笑ってる。もてるだろうな。アタシのカレがオトナになったらこんな風になりそう。 でも、どっちかと言うと、カレにはアタシを助けてくれた彼みたいになって欲しい。 アタシは本が好きだから(そう言うと彼は「暗い」って言う)、 一緒に本屋さん行って、帰り道にこういうお店に寄って、選んだ本を見せ合ったりしたい。 誰にも言えない、友達にも「おかしいよ」って言われるから言わない『夢』だ。
なのに何で今のカレと付き合ってるんだろ? 簡単なんだけどね。外見いいし、お金もってるし、皆羨ましがってくれるから。 醜い、みっともない、アタシの心。 『夢』なんて語る資格ないよ。
二人のお客さんは時々話して、時々黙って座ってる。 いいな。 あんな風に、誰かと静かな時間を一緒にすごしたい。 コスメもゲームもケータイもいらない。 でも一人になりたくない。
彼らが席を立った。 その背に「ありがとうございました」と言うと、お友達がこちらを振り返って、彼もつられたように振り返った。 少し笑っているようだった。 胸に灯りがともったような気がして、気がついた。 カレが怒るの知っていて、連休にバイトを入れたのは、あの人に会えるかもしれないと思ったからだ。
お休みが終ったら、カレと距離を置こう。 そのままできたら忘れてもらおう。 バイトを増やそう。 勉強もしよう。 忙しくなる。 つまらないミエより大事なものが見つかったのだ。
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