日記でもなく、手紙でもなく
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| 2002年08月16日(金) |
ドレスデン157年ぶりの大洪水 |
エルベ川やドナウ川の洪水のニュースが毎日更新されていく。 13日に、この一週間で洪水により68名が亡くなったことが伝えられている。チェコやドイツ(旧・東ドイツ)、ルーマニアなどの被害が大きいようだ。 チェコの首都プラハ市内では非常事態宣言が出されたし、動物園ではうまく移動できた動物もいれば、インド象など、水位が上がって興奮状態に陥り、射殺せざるを得なかった、というような記事や、ドレスデンの駅が水に使っている写真なども出ている。
ドレスデンでは、この季節の標準水位が2m程度しかないエルベ川の水位が、今回の雨で一挙に8.5mを超えたという。 「ドレスデンの市の中央部のツウィンガー宮殿では、ラファエロ作の名画『システィナのマドンナ』などの収蔵品を展場場から外して避難」というような内容の記事も今日見かけることになる。 このツウィンガー宮殿には、古典絵画館や陶磁器博物館が入っているそうだが、初めてフェルメールを見たのが、このドレスデン国立美術館展が日本で開催された時だった。
脇道にそれてしまうのだが、確かその1〜2年前頃に、谷川俊太郎<散文>という本が出ている。大学を卒業して、ぷらぷらしていた1年間。その時に、この本に出会っている。 そんな時期だったこともあり、谷川氏のこのエッセイから、いろいろな影響を受けたような気がする。
しかし、この本が今でも忘れられないのは、その冒頭に、「フェルメールへの渇き」というタイトルのエッセイが載っていたことだ。 フェルメールの絵の美しさを、見事な文章にしているのを見て、自分も一度は見てみたいものだと思っていた。 フェルメールという画家のことは全く知らなかったものの、その後作品点数の少なさなどを知るにつれ、日本で見られる機会はまずないのではないか、そんなふうに半ばあきらめていたところに、このドレスデン美術館展が開催された。
フェルメールとはいえ、当時日本ではまだまだ知られていなくて、今ほど多くの人が関心を持っていなかったのも事実。 たまたま、先に見に行った人が、図録を買ってきていて、その表紙が、フェルメールの<窓辺で手紙を読む女>だった。
結構くすんだ色の絵だなぁ.....というのが、その図録を見た時の第一印象。これが、フェルメールか?という、ちょっと拍子抜けした気分でもあった。
その後会場へ足を運ぶことになるのだが、そのフェルメールの絵の前には(今だとまず考えられないことだが)、ほとんど人がいない。たまたま、誰も見ていないその絵の前に立ったら、実はそれがフェルメールだった、というほうが適切だろうか。 しかし、その絵を眺めれば眺めるほど、その色彩と描かれている人物、それを取り囲む空間などに惹きこまれ、そこを全く動けなかった自分がいたことを今でも忘れられない。 窓ガラスに、手紙を読む女性の顔がうっすらと写りこんでいるところ、本当に柔らかい光を、これだけ描ける画家がいた、ということの驚き。
ドレスデン美術館展では、フェルメールのこの絵以外の展示作品のことなど、今や他には何も覚えていなかったりもするのだが..... ドレスデンの宮殿の展示場から避難した絵の記事を読んで、私に初めてフェルメールを見る機会をつくってくれたのが、この美術館だったことを思い出した。
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