この間 家人が飲み会で留守の夜 遅く 無言電話があった。
「もしもし?」 数回聞けども相手は何も答えない。 ただ受話器の奥からTVの声のような男女の会話が聞こえたような気がしたので こっちのTVの音声を落として チャンネルをかえまくった。
おなじ音声のTV番組をキャッチしようと 思わずしたのだが そんなことわかって何になるというのだろう。
「ちょっとあんた。 今 ○チャンネル観てるやろ。んぁ? どや、あんたの素性はもう割れてるで。」
相手の覆面性をはぎとってこらしめてやりたかったのだと思うが 我ながら力の薄いことをしてしまった。
正直1人で部屋にいるのは怖いので おかしな脅迫傾向に走ったのだろう。 「・・・あぁ ○チャンネル観てる。 で?」ってもし言われたら どう応じればいいんだ。 「そ、そうか。面白いか、な?」と 途端に私は弱気になるに違いない。
しかしどのチャンネルも 電話から聞こえる小さい音と合致するものがなく かえってほっとしてしまった。
じーっと受話器をもったまま様子をうかがうが、 この相手は何も喋ろうとしない。
もし相手が はぁはぁ言ったり 下着の色でも聞こうものなら 「この鶴光めが!」と 大昔のオールナイトニッポンを知ってる人間しか 理解できないせりふで罵倒しようと思った。
だが相変わらず沈黙と TVかラジオからのような遠い音声が聞こえるだけ。 すんごく不愉快なのだが、ふと さっき「○時に帰る」と電話してきた家人の携帯電話が どうかした具合でリダイアルになってしまい その音声が今 届いているとしたら と思った。
TVと思った男女の声は 実はTVではなく リアルタイムな家人の状態であったとしたら。 そして、そこに大変な秘め事があったとしたら。 す、すごいドラマだ。
わたしは 無言の受話器を握り締めて 妄想と鼻の穴だけを大いに膨らまし 気が付けば数分経ちそうだったので 静かに受話器を置いた。
翌日、ダンナさんに昨晩の無言電話の話しをし、リダイアル疑惑も伝えたが その時刻に発信歴はなかったそうだ。 つくづく自分は被害妄想のケがあると思った夜なのであった。 *********
とってもさばさばと まるでいくらでもこれからチャンスのある試験に 落ちた人間にいうかのように「残念だったわねっ」と 私に例のことを慰めた人がいた。
事態は決して深刻でないことを強調した それは、私に対する彼女なりの思いやりだ。
でも私はぽかんとしてしまった。 再度同じ言葉を繰り返されてようやく少し笑って「そうね」と言った。
だけれど やはり私の中にしこったのは、 もしかしたらもうチャンスはないかもしれないのにという怯えや 同じ経験をしていない人間に対する嫉妬もあったかもしれないし、 優しくされたいという 甘えもあったと思い当たり うまく答えないとお互い恥ずかしいと思って 笑って「そうね」といった後「がんばるわ」といった自分が恥ずかしかった。
いよいよ自分が醜くなるようで 自分に棲む鬼にぶるっとした。
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