シェイクスピアは観て面白いから好きだけど、シェイクスピアが残した作品のうち、ポピュラー過ぎるくらい有名な演目以外はそうそう観れない。 だから、グローブ座カンパニーがあることが嬉しくて、いつか観にいけたら…と思っていたのだが…なかなか折り合いのつかないままにグローブ座がクローズしてしまった。そのままグローブ座カンパニーもなくなってしまうのかと思ったけど、子供のためのシェイクスピアカンパニーとして続いていくことが嬉しかった。
そして、名古屋公演があるという…。 観に行かない訳にはいかない。しかも、あまり上演されることがない…私が観たことのない演目だ。
場所は愛知芸術劇場小ホール…定員234名の小さなホールです。 舞台の高さもなく、こじんまりとしたホールですが、それだけに出演者の息吹が近い…往々にして私が行くのは大きな劇場ばかりなので、マイク不要な舞台との親密さがとても新鮮でした。 椅子が可動しやすいようになのか…パイプ椅子だってのがご愛嬌ですが。(^^;
『シンベリン』…ブリテンの王様の名。 二人の息子は行方不明で、一人娘のイモージェンは密かにポステュマスと結婚してしまう。それに激怒したシンベリン王はポステュマスを追放。 ローマに渡ったポステュマスはそこで知り合った男と妻の貞淑さを賭けにする。男は失敗するが、姦計を用いてポステュマスを欺く。絶望したポステュマスは召使に妻を殺せと命じる。しかし、召使は妻を逃がす。ブリテンとローマと戦争になり、それぞれが戦争にまきこまれながら運命に翻弄されていく…。
…って、説明してもなんだかよくわからない説明になってしまいますね。
出演者は9人+ジュピターの人形。 山崎清介さんが操りますが、10人目の出演者といってもいいくらいに大切にされ、絶妙な面白さを醸し出していました。 ちゃんと、衣装がえも何回もありましたしね…。(^m^)
子供のためのシェイクスピアカンパニー…というだけあって、シェイクスピア作品特有のたたみかけるような台詞回しではなく、非常にわかりやすかったです。 これを子供の為のものにしてしまうのはもったいない!
しかし、だからといって、上演中にうちわをずっと扇ぎつづけていたり、飲食したりする大人には来て欲しくないですが…。<いたんですよ!ムカツク… おまけに、子供用に座布団の貸し出しもしていたのですが、『子供』と言えない図体の大きさなのに、座布団使用…ってのは、どういうつもりで借りてるんでしょうね…。 上演中に親子でひそひそと話し声がするのはご愛嬌…というか、微笑ましいと思う場面もある。 でも、前の席を蹴ったり、椅子をがたがた揺らすのは大迷惑! …なんで、親は注意をしないのか。 しかし、パイプ椅子なのを幸い、足で押さえつけて、がたがた揺らすのを阻止していた私も負けてはいない…というか、こんなことで負けられない! 上演中は密かな攻防が続いていた(笑)。
シェイクスピア作品を観ていると、宮廷とはなんと悪意に満ちていやなところだろうか…と思わざるをえないが、策謀とそれに右往左往する人は面白い…。 しかし、過剰なほどに運命に翻弄される人ばかりが出てくる…。しかも、自発的にそう仕向けるのではなく、巻きこまれていくという形を取ることが多い。
タイトルは『シンベリン』。
ブリテンの王様の名前…しかし、お話は若いポステュマスとイモージェンの夫婦を軸に進んでゆきます。 アクの強い王妃と連れ子の馬鹿王子。語り部のようなジュピター。 インパクトの強い出演者達によって、なんだか話の中のシンベリンの影は薄い。 でも、一度出てくれば、きっちり存在を主張しているのだけれど………やはり、王様を軸に持ってきたのではお話がぱっとしませんか?
『時宗』とタイトルがつきながら、時頼と時輔の人生をつなぐ為に時宗が在ったようなものですか?(^^;
セットはシンプルに赤いパオ(天幕)と机と椅子のみ…しかし、それが玉座にも山にもなるから舞台という空間は面白いのです。何もないところに何かあるように思わせるのは役者の力量ですが、舞台という空間無くしてそれをやり遂げるのも難しいものです。しかも、演目にふさわしい大きさは重要だと思います。 ただ、大きければいいってもんじゃないってのを実感させてくれる舞台でした。 小さいからこそ、舞台を飛び出して駆け回る役者さんの表情が生きる。 客席の狭間を抜けて後ろのドアから出た役者さんがほんの僅かあとで舞台の奥から出てくる…これを大劇場でやろうったって、できるものではありません。
9人しか出演者がいないので、当然のことながら一人何役もやらなくてはなりません。しかし、登場は亡霊として黒づくめの格好で出ていたのが、帽子とコートを脱いで王妃や王様になるという早変わりは実に興味深かったです。 おまけに、人形のジュピターまでちゃんと早変わりがあって微笑ましいです。 『Lion King』に出演していた役者さんが、自分の操るパペットを指して『もはや、自分の体の一部』だと仰っていたのを思い出します。
このカンパニーの観劇は初めてですが、なんかほわほわした雰囲気で笑えて、はっと息を呑むところもあり…結構、いいですよ。 何よりも、あのたたみかけるような、役者がヒートアップしてくると更に聞きづらくなる矢継ぎ早の台詞じゃないというのがいいですね。
伝えることはきっちりと伝えながら、子供でもわかりやすい言葉を選んで簡潔に伝える…。
非常に重要ですが、舞台とは総合芸術…でも、誰かに何かを伝える以前にそれに携わる人々は皆、アーティストだから、自己満足の影に追いやられて忘れがちなことでもあると思うんです。
演じる側からみてやりがいのあるものが観る側にとっては面白くないどころか、苦痛にもなりうるということも往々にしてあるものです。 そういう点、『子供のための…』とかついてる演目なんかはそれが十分に考慮されているし、子供のほうが完成が鋭い分、生半可な演目じゃ満足はしないので、高い水準のものを観ることができると思うのです。 ともすれば、想像力の及ばないような宮廷生活を身近な喩えを上げることでわかりやすく噛み砕き、子供たちが退屈して騒ぎ出さないように、随所に笑える見せ場を作る…大変なことです。 そして、時事問題を取り入れ、『コルク入りのバットは違反なんだ〜!』とか『ろーっこ〜おろーしにぃ〜♪』とかね…(笑)、面白かったです。
昔は、人を笑わせるということがこんなにも難しいことだとは思わなかったけれど、今ならそれがわかるようになった。今なら、昔には気づかなかったことにも気づけるようになった。
それでも、犬を演じている時がいちばんノッていると思うのは今も昔も変わらないだろうけれど…(笑)。
次は何の演目で出会えるのかが非常に楽しみになりました。
…お願いだから、また名古屋飛ばししないでね?o(> x < o) (o > x <)o
|