鼻くそ駄文日記
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ごめん、今日の小説、まじ下手です。
『あれからこっちは』
和美が録画していた音楽番組を再生する。平日の午前中、この時間のテレビは、おばさん好きのするものばかりでおもしろくない。 和美は浜崎あゆみが好きらしい。彼女の歌詞に心から共感している。 再生したビデオには浜崎あゆみが映っている。ちっちゃい茶髪の女の子だ。見たいのはこの子じゃない。だけど、画面に目を凝らす。 いた! 浜崎あゆみの後ろで踊りながらギターを弾いている彼――野村義男が。 金八先生の頃から彼のファンだ。ニヤついた愛想の良さがたまらなく好きだった。 たのきんトリオの他のふたりが、ヒット曲を出してばりばりのアイドルになっていくなかで、よっちゃんは地味な存在になり女子高生の噂からも消えていった。 そのよっちゃんがいまもテレビで見られる。相変わらずの笑顔を見せてくれる。 電話が鳴った。 ビデオのリモコンで停止をする。呼び出し音は鳴り続けている。 ビデオのリモコンでテレビをミュートする。やっと、電話にたどり着き受話器を取った。 「もしもし?」 「恭子? 何してるの?」 「敦子か。今日はお休み?」 そう言って、またビデオを再生し直した。テレビのミュートは解除しない。 「そうなのよ。だけど、仕事しているときはいつも休みたいと思うけど、休んでみるとすることがないのよね。だから電話しちゃった。暇をもてあましてるの。あたし、専業主婦にならなくてよかったわ」 「そうね。敦子は昔から」 「落ち着きがなかったって言いたいんでしょ。ひひひ。じっとしてられないのよね。何かをやってないと楽しくないじゃない」 「そうね」 浜崎あゆみが歌い終えたようだ。ビデオを曲の頭まで巻き戻す。 「そうよ。昔はよく遊んだわね。恭子もあたしもノリがいいから楽しかった。高校生からディスコにも言ってたもんね。煙草もパカパカ吸ってた。そう言えば、あんた、煙草やめたのいつだっけ?」 「上の子を妊娠したとき。子供に悪影響」 「悪影響って、恭子、あたしたち長いスカート履いてぶいぶい言わせてたじゃない。子供がグレても文句言えないんじゃないの、あたしたちって」 「そういう悪影響よりも、五体満足に生まれるかの不安が」 「そういえば、上の子ってもういくつになったの?」 「中三」 「えー! もうそんなになるんだ。恭子も老けるはずだね。それじゃあ。じゃあ、もう高校受験?」 「ええ」 「大変でしょ?」 「まあ」 「うちのバカせがれでも、私立の付属校でエスカレータで高校に行けることになってたけど、大変だったもん。いくら付属校のエスカレータと言っても成績が悪ければ行かせてもらえないこともあるのよ。だから、苦労したわ。だけど、公立の中学から高校へ行くのってもっと大変でしょ。内申書をよく書いてもらうために、先生にごまもすらなきゃいけないんでしょ」 「そんなことはないけど」 「本当? あたしの会社の主任の奥さん、息子さんの公立高校受験の年には担任の先生にお歳暮を出してたわよ。恭子もお歳暮ぐらいは出したほうがいいと思うわ。公立高校って内申書のウエイトが大きいらしいから」 曲の間奏の間に二回、野村義男のアップがあった。 受話器を持ったまま、野村義男の顔を見る。 老けたな、と思う。もう、あれから二十年以上。 「でも、そんな話、うちの校区じゃ聞かないけど」 「賄賂を渡したということを公言する人はいないわよ。みんな、したたかにやっているのよ。恭子は昔からよね。細かいことに無頓着でぼけーっとしててよく知らないの」 「そうなの。考えておくわ」 「いいアドバイスだったでしょ」 と言ってから敦子は笑った。
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