鼻くそ駄文日記
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強引に終わらせました。うーん。 追記・ちょっと燃え尽きたので、来週月曜まで書きません。では。
家族のため
ネクタイで首をしめて家を出る。 仕事なんてちっともおもしろいもんじゃない。 家族を守るために働く、と言えば聞こえはいいがろくなことはない。人に頭を下げて、人に怒鳴られる。中堅の年頃になった最近では、明らかに自分のことを尊敬してない若い奴を怒鳴り、その若い奴のへまで身に覚えのないことまで頭を下げる。それで家族は守れるもんかね。 もっとも、家族も守りたいと思えるほどいいもんじゃない。女房は三食昼寝付きで、いっぱしのことは言うが、何も社会には消費でしか貢献していない。息子の弘晃は反抗期でおれのことを心底憎んでやがる。おれを見るときの息子の顔には「さえねえ、親父だなあ」と書いてある。そのくせ、息子がさえているかと言えばそうでもなく、このあいだ学校から女房と一緒に呼び出された。女の先生を殴ったらしい。まったく、力の強い男に刃向かって喧嘩を売るならまだ見所もあるが、弱い女性を殴るなんてなあ。誰に似たんだ? 唯一、守りたいと思うのが娘の和美だが、おそらく和美も弘晃のようにおれを毛嫌いするようになるだろう。佐藤さんとこの娘さんはこのあいだ、真顔で奥さんに「あたし、お父さんみたいな人とは絶対結婚しない。どうしてお母さんはお父さんみたいな人と結婚したの」と言ったそうだ。佐藤さんは「困ったなあ」と笑っていたが、内心はひどくショックを受けているようだった。おれだって、娘にそんなことを言われてしまえば、表向きは「くそ生意気な娘でねえ」と笑うだろうが、十代の頃の失恋ぐらいのショックはらくに受けるだろう。 また、もし、和美がいまのまま、おれをいいパパとして好きでいてくれても、問題がないわけじゃない。 先日、ついに和美は初潮を迎えてしまった。これで大人になったね、なんて世間知らずの女房は浮かれていたが、おれにしてみれば冗談じゃない。子供を作れるからだに娘がなってしまったということは、娘が子供を作るようなことをするかしれない、ということなのだ。そんな日に赤飯炊いて祝う女房も女房だ。おれはきちんと、むやみに子供を作るようなことをしてはいけないぞと娘に注意しておこうと思ったが、女房が浮かれて「乾杯」なんて言い出すから、ついぞその機会には恵まれなかった。 まあ、まだ小学五年生であるからその心配はいまのところはないのだが、あと五年後にはどうなっているかと考えるだけで、和美の同世代の男という男を抹殺したくなる。セックスをしないにしても、恋愛ぐらいはするだろう。好きな男が出来て、手をつなぐかもしれない。最近の若い奴は早いと言うから、すぐにキスをするかもしれない。このおれでさえ、和美とのキスは三年以上してないのに! ぜひとも、娘には出会いの少ない女子校に行ってもらいたいと思っている。 だが、いくら女子校に行こうと、いくらもてなかろうと、いつかは結婚する。おれはそれを考えると、何のために家族を守っているのかがわからないのだ。 バス停に通勤客をたくさん乗せたバスがやってきた。バス停にもおれを含めて五人の通勤客がいる。いまごろ、女房は小学校の娘を送り出して二度寝をはじめている頃だろう。おれは家族を守るために、会社へ向かう。
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