8月の中頃に母親一家がてめえの家に逃げてきた。再婚相手とうまくいっていなかったのだがとうとう飛び出てきたというわけだ。
そんなわけで、呆けた父と飛び出してきた母親との不思議な同居が始まった。妹と弟もやってきて、おかげで賑やかになってしまった。てめえとしてはありがたいことだ。
当初の計画では、数か月てめえの家に同居してお金をためて、それを敷金礼金にして新たに家を借りようという計画だった。妹の勤務先や弟の通学先の関係から、以前に住んでいた地域の近くで家を探していたが、てめえの家付近のあまりの治安の良さと便利さにこの辺で探す方向に方向転換した。
以前に母親一家が住んでいた地域はてめえも育ったところなので良く知っているが、それはそれは治安も悪くろくでもないところだった。最寄りの駅からの帰りには頭のおかしいシンナー臭漂う若者に意味もなく追いかけられることはしょっちゅうで、近くのラーメン屋の店長が射殺されたり焼肉屋でヤ印の銃撃戦が始まったりと本当にろくでもないところだった。極貧でなければさっさと引越しするレベルで、てめえは大学に進学したことをきっかけにその地を離れ二度と帰ることはなかった。今後もまずないな。てめえの住んでいた公営住宅には生活保護や母子家庭や中国人が住んでいたが、その地域にはそんな公営住宅ばかりだった。
思うに、便利な都会と素朴な田舎の境界地域が最も治安が悪いのではないだろうか。特に京都はそれが顕著で、以前都だった時にはお土居で囲んだ洛中のすぐ外に賎民の住む地域があった。他の大都市はそういった地域が戦争のために地域ごと破壊された例が多いが、京都は空襲にも会わずそのまままるっと残った。そのせいで、京都の場合住所を聞くだけでどういう人なのかすぐにわかってしまう。
弟はてめえの地域に来てからコンビニに行くのが怖くなくなったそうだ。一人で夜で歩いても問題なく、コンビニに頭のおかしい若者も屯っていない。彼の意見が大きく影響し、母親一家はこの辺で家を探し始めた。
ところがこの辺には安くで借りれるアパートがない。団地もない。あるのは築年不詳(少なくとも100年以上)の町屋だが、借りれる値段ではない上にぼろぼろである。数件見に行ったが隙間風びゅーびゅーで大幅に改修しなければ居住は不可能と思われた。
地域を広げて探してみたがいい物件はなく、途方に暮れていたところ、てめえの家の近くに売り物件が出た。家を買うことなど全く想定していなかったが、見に行くときれいに使われており、ローンのシミュレーションも毎月の返済額が賃貸予定のときの約半分と出た。低金利さまさまである。
そんなわけで家を買うことにした。母親は高齢でローンが組めず、妹は働いているとは言えバイトなので信用が全くなく、てめえがローンを組むことになった。仕事を大幅に減らしているてめえには貯金がまるでないのだが職業柄信用は抜群なようで、現在ローンの審査待ちだがまず間違いないだろうと。クソめんどくさいことがたくさんあったが家を買えればすべて吹っ飛びそうだ。
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