解放区

2014年02月25日(火) ある研修病院の一頁

てめえ(以下て)「じゃ、はじめよか。」

A「宜しくお願いします。喉の痛みと発熱を訴えて来られた方ですが…」

て「はい、いったんストップ。そんなプレゼンテーション教えた記憶はないで。何度も言うけど、症例提示するときはまずは年齢。次に性別。そして主訴。その後に現症。ええ加減覚えようね。これは世界共通やで。どの医学雑誌見ても、そうなってるんや。理想的にはNew England Journal of Medicineのプレゼンが理想的なので参考にしてね。はいやり直し。」

A「すみません…。患者さんは25歳女性、咽頭痛と発熱を主訴に来院されました」

て「うん、それでいいんやで。…で、ここでいったん止めようか。ここまでで何考える?」

B「答えていいですか? 発熱は何度か知りませんが、発熱と咽頭痛と言えば、まずは溶連菌ですよね。なので、Centor's criteriaに基づいて発熱の有無、咽頭所見、頚部リンパ節所見、咳があるのかどうかを知りたいですね」

て「うん、いいね。よく勉強してるね。Centor's criteriaは"FACT"で覚えると忘れないからいいよ。

F Fever(38.3℃以上)
A Absence of cough(咳がない)
C Cervical lymphadenopathy(頚部リンパ節腫脹)
T Tonsillar exudate(咽頭の滲出物)

4つそろったら、検査は不要で溶連菌確定。2-3だったら溶連菌の検査。1以下だったら溶連菌はまずないので経過観察だったね。実際はどうだったの?」

A「発熱は39℃でした。咳はあったようです。頚部リンパ節の腫脹はありました。咽頭の滲出物は認めませんでした」

て「他の症状は?」

A「気道症状としては、咳は少量で痰も出ていませんでした。鼻水もなし。腹部症状はなく、下痢嘔吐も認めていません。悪寒はあり、全身の関節痛は認めませんでした。膀胱炎の症状も認めませんでした。」

て「オッケー。続けよか」

A「既往歴は特になし。入院や手術歴なしでした。内服中の薬もありません。喫煙もせず、アルコールは機会飲酒です」

て「診察の結果はどうだったやろ」

A「眼瞼結膜に貧血を認めず、眼球結膜に黄疸を認めませんでした。項部硬直はなく、咽頭は発赤しており頚部リンパ節の腫脹と圧痛を認めました。咽頭や扁桃に浸出物を認めませんでした。胸部所見ですが、心音は清、�飢撒擇哭恐擦論犠錣如↓群擦鉢顕擦惑Г瓩泙擦鵑任靴拭�心雑音は認めませんでした。肺野は清で呼吸音に左右差はなく、肺雑音は認めませんでした。腹部ですが平坦軟で圧痛はなく、腹音は正常でした。Murphy徴候は陰性でした。CVAの叩打痛は認めませんでした。その他皮疹等も認めませんでした」

て「おっいいね! 良いプレゼンテーションやで。診察結果は体の上から下へと言うんだったね。ちゃんとできてるやん、今後もその調子でね。」

て「とすると、上記のcriteriaは二つ満たすのみやな。咽頭痛と発熱やったらまずは咽頭炎として考えて行きたいところやね。とすると次は溶連菌の検査やけど、どうしたの?」

A「溶連菌の検査はしていません…」

て「あれ、なんで?」

A「ご本人がインフルエンザを心配しておられたので、インフルエンザの迅速検査をしました。」

て「…なるほど。でもそれ、医学的適応としてはどうやろ。その時点でインフルエンザを君はどれくらい疑ってたのか、という話や。インフルエンザで頚部リンパ節が腫れるのは一般的やろか?」

A「実は正直な話、溶連菌は全く考えていませんでした。まだ流行している時期やし、インフルエンザをまず考えました。頚部リンパ節の腫脹も、まああってもおかしくないかなあと。」

て「じゃあ、他の人の考えを聞いてみようか。Bさんは、溶連菌を考えていたのだよね」

B「まあ、あとだしじゃんけんですけどね。私もその場にいたらインフルエンザ調べてたかもですね」

て「まあそれはそうかも知れんけどね。他には何考える?」

B「溶連菌かどうかですが、あとはウィルス性の咽頭炎ですかね」

て「他の人は?」

C「…そうですね、私もまずは溶連菌ですが、あとは伝染性単核球症を考えたいですね。」

て「おっ、いい意見が出たね。まあウィルス性やけど、伝染性単核球症は考えないといかんよね。じゃあ、溶連菌か伝染性単核球症か、君ならどう診断するの?」

C「まずはよく話を聞きますね。そして、伝染性単核球症なら肝障害が多いので血液検査します」

て「よく話を聞くって、どういう話を聞くの? あと、肝障害は血液検査も必要やけど、そのまえにすることあるんとちゃうの?」

C「話は…聞きにくいけど性的接触ですね。初めてのキスでうつるんですよね? 血液検査の前にすることって…分かりません」

て「伝染性単核球症の原因はなんや? あと、肝障害がひどいと白い便が出るのやけど、そう言うことも聞かんといかんよな。ええか、患者さんの話をよく聞くことで9割の病気は診断できるのやで。話をよく聞かへんかったら検査費用は患者さん持ちやで。」

C「原因は…EBウィルスですよね。たまにサイトメガロウィルスと習いました」

て「そんだけか? 忘れたらいかんのがあるやろ」

C「…なんでしたっけ?」

て「HIVやんけ。ええか、伝染性単核球症疑ったら絶対にHIV調べろよ。そういう話もきけ。でも、性的な話は信頼関係がないとなかなか言ってくれないから、本人が絶対ない、って言っても、念のため調べましょうと説得して調べる。話を聞く時は、「異性と付き合い始めた時に伝染ってしまうことがあるのですが、最近お付き合いを始めた方はいますか?」って聞くとうまく聞けるかもしれんよ。」

C「なるほど…!」

て「身体診察としては肝障害と脾腫だよな。脾腫は体触ればわかるやろ。最近はろくに診察もしないですぐに検査に走るきらいがあるけど、そうなる前に患者の体は怪しいところはしっかり触る。「手当て」って言葉があるやろ? 医師が手をあてることで、患者は快癒するねんで。触りもしない医者はそもそも信頼されへんからな。かといって、変なところ触るなよ! で話戻るけどA君、脾腫はあったの?」

A「診てません…」

て「診ないとね。これは後から検証しようね。さて、話は元に戻ろうか。インフルエンザ調べてどうやった」

A「陰性でした」

て「だろうね。今までの話でインフルエンザらしい話ないもんな。正直無駄な検査やったかもな。で、どうしたの?」

A「その時は、インフルエンザは陰性なので様子見ましょうとお話しして解熱剤だけ出して帰宅させました」

て「溶連菌は調べなかったわけね。」

A「はい…。まずかったですかね」

て「まずいで。溶連菌やったらどうすんの。リウマチ熱、急性糸球体腎炎のような合併症あるで? あと、他の病気を考えなかったのはまずいんちゃうか? 自然治癒したらいいけどな。ほんで、どうなったの?」

A「翌日に、発熱も下がらない、喉の痛みも強くなるということで再度来院されました。」

て「だろうね。で? どうしたの?」

A「もう一回インフルエンザを調べました…」

て「あきさみよー!」


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