解放区

2014年02月26日(水) ある研修病院の一頁 其の弐

て「で、結果は? 陰性やったやろ」

A「はい、陰性でした…。」

て「よし、もうインフルエンザのことは忘れよう。2回も検査しているので、まず否定できるわな。じゃあもう一度、考えられる疾患と、今後のプランについて議論しようか」

A「考えられる疾患としては、咽頭炎ですね。細菌性とウィルス性があって、後者の場合は伝染性単核球症の可能性もあります」

て「そうやね。細菌性やとまずは溶連菌やね。昔はジフテリアもあったらしいけど、今やほとんど見ないし頭の片隅にとどめておくくらいでいいと思う。溶連菌やったら、繰り返している人も多いし、過去に溶連菌感染がなかったかどうか確認した方がいいね。あまりに感染を繰り返すようなら扁桃摘出術の適応にもなるしね。ちなみに手術適応はどうなっている?」

A「ええと、年に1回は罹る場合でしたっけ?」

て「それやとかなり対象者が多くなるね。Bさんは?」

B「年に3-4回だったと思います」

て「そうやね。それくらいになるともう日常生活に支障を来すレベルやし、手術した方がメリットがあるよね。さて話を戻して、ウィルス性の場合は伝染性単核球症もあるけど、多いのはアデノウィルスやね。他に忘れたらあかんのがヘルペス。ヘルペスは他のウィルスと違って治療薬があるので、忘れたらあかん。他は?」

A「ええと、真菌もありますかね」

て「免疫不全状態とか、免疫抑制剤を飲んでいる場合などは考えた方がいいやろね。この方の場合はどうやろ」

A「若いし既往歴もなく、免疫抑制剤も飲んでいないとのことであまり考えなくていいと思います。」

て「せやね。まあ可能性としてはだいぶ下の方やな。他は?」

C「癌の転移とかはありますか?」

て「ないことはないやろうけど、それこそ可能性としてはだいぶ下の方やな。そもそも転移やったら原発の症状があるやろうし、25才で癌はかなり考えにくいんちゃうかな。転移考えるんやったら、むしろ原発性の咽頭癌などをまず考えた方がいいと思うけど、これまた年齢的に考えにくいね。他は?」

B「稀な病気でもいいですか? 菊池病とかも考えられるかと思います」

て「おっ、いい意見が出たね。菊池病は知られていないだけで、意外と稀じゃない。若い人にも多いので、頭の片隅に入れておいた方がいいね。よく知ってたね。今は学校で習うの?」

B「いえ、以前にリンパ節の腫れた患者さんの鑑別に上がっていたことがあったので、その時に勉強しました。」

て「ぜひ覚えておいてね。知らんとそもそも診断できないからね。まあとりあえずはこんなものかな。で、プランは?」

A「溶連菌かどうかですね。」

て「その通り。溶連菌だったら、溶連菌の治療を行う。溶連菌検査が陰性だったら、他の原因を探しに行かないといけないね。で、溶連菌の検査はどうだった?」

A「それが検査しなかったんです…」

て「あきさみよー! 2回目の来院時も検査しなかったのね。で、どうしたの」

A「採血をとりました。」

て「なるほど、まあいいけど、今度からは溶連菌の検査してね。喉こするだけや市、結果は10分くらいで出るし。で、結果は?」

A「炎症反応は余り上がっておらず、白血球も軽度上昇くらいで左方移動は認めませんでした。異型リンパ球は認めませんでした。肝機能障害がありました。その他大きな異常を認めませんでした。」

て「どう解釈しようか」

A「ちょっと判断に困りました。典型的には細菌性ではないし、伝染性単核球症も否定できないし…」

B「炎症反応はタイムラグがあるときがありますよね。だから細菌性ではないとは考えないです。でも、肝機能障害があるのなら、まずは伝染性単核球症から考えたいですね」

C「私は普通にウィルス性で良いと思います。伝染性単核球症だと典型的には異型リンパ球出ますよね。肝障害はまた別で調べて行った方が良いのではないかと思います」

て「ふむ。いろんな意見が出たね。さて、この採血が2回目の来院時ということを考えると、タイムラグは考えなくていいと思うよ。症状が出てすぐだったらまだしもね。しつこいけど、溶連菌の検査をしていればはっきりするんだけど、していないのだからしょうがないよね。しかしこの結果からは細菌性の香りがしないね。なので、ウィルス性を考えたいね。伝染性単核球症の場合、異型リンパ球が出ることが多いけど、後から出てくることもあるので否定はできないね。ちょっと時間はかかるけど、ウィルスの抗体検査をするとはっきりするので検査は出しておいた方がいいな。で、どうしたの?」

A「咽頭痛と嚥下痛がつよく、食事もとれないと言うことで入院としました。追加でウィルス抗体も提出しました。」

て「そうだね。ウィルス性だと治療もないけど、咽頭痛が強かったら水も飲めないし入院して補液する必要があるよね。」

A「で、細菌性も否定できないと考えて、ペニシリン系の抗生剤も念のために投与を開始しました」

て「な、な、なんだってー! あきさみよー!」


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