解放区

2014年03月03日(月) その1

恩納村から国道58号線を北に進み、沖縄自動車道との合流点を過ぎ、かつては交通の難所として知られた名護の七曲を抜けると、こじんまりとした名護の市街地が出現する。

左手に広がる青い海と、右手に聳える崖の合間を縫うように走る58号線の向こう側に見える名護市街は、始めてみたときはまるで蜃気楼のようだった。

その蜃気楼に向かって、買ったばかりの原付を走らせた。南風原を発ってから約3時間の旅に、この中古の原付バイクはよく耐えた。割れたボディをガムテープで無理やり補強した、頼りのない見た目とは違って、このホンダのバイクのエンジンはすこぶる快調だった。一度も不調を訴えなかったこのエンジンに、おい、目的地はもう少しだからな、と私は心の中で呟いた。


目的とした民宿は、名護市役所のすぐそばにあった。前衛的な建築物である名護市庁舎は遠目にもすぐわかったので、民宿まではほとんど迷うことがなかった。

目的とする民宿の前で、原付のエンジンを止めた。民宿自体は道路から少し入りこんだ路地の奥にあったので、バイクを押して歩いていく。焼けるような沖縄の太陽が身に刺さり、海からの潮風が体を包む。バイクを押した距離はほんの10m程だったが、暑さと湿気でたちまち体中から汗が噴き出した。

民宿の前にバイクを止めようとすると、中から出てきた男と目が合った。おそらく宿の主人だろうと私は思った。

「すみません、今晩の宿を予約していたものですが…」

「あい、電話くれた人ね。兄さんごめんね、申し訳ないけど、予約の人がたくさんいてね。なので相部屋になるけどいいかな。その代わりと言ってはなんだけど、料金は半額でいいさぁ」

と、奥の方からのっそりと出てきた宿の主人は全く申し訳なさそうな素振りを見せずに言った。


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