解放区

2014年03月20日(木) 初日。日本精神(リップンチェンシン)に出会う。

台湾の桃園国際空港へと向かうピーチ航空のピンク色の飛行機は、ときおり機体を揺らせながら厚い雲の中へとゆっくり沈んで行った。ベルト着用のサインはとっくに点灯しており、客室乗務員含めてすでにみな着席している。

細かい揺れが続いたかと思うと、ときおりジェットコースターに乗っているときのように大きく揺れる。厚い雲の中を通過しているので、ある程度は仕方がないと頭では理解しているが、飛行機経験値の少ない弟は隣で一人青ざめていた。

「いま、むっちゃ降下したで。大丈夫なん?」
「大丈夫、雲の中やったらこれくらい揺れるわ」

しかしまあビビるのも仕方ないよな、と思うくらいの激しい揺れもあった。

しばらく雲の中の飛行が続くと少し退屈してきたので、持ち込んだ本を読むことにした。


今回の旅行では、カラー写真がたくさん掲載されている台湾の食に関する本のみ紙媒体として持ち込み、他の旅行用ガイドブックなどは全てkindleで調達した。ので、「書籍」として持ち込んだのはこの二つのみである。そして着陸態勢に入ると、すべての電子機器の利用は禁止されるのでkindleは読むことができない。

揺れる機体の中で本を読んでいると、本を読む私を見ている人の方が気持ち悪くなるらしい。私は船の中でも読書を楽しめる「鉄の三半規管」を持っており、したがって乗り物酔いをしたことがない。

しばらく読書をしていると揺れも小さくなってきた。そろそろ雲の中から出る頃だろうか、などと考えながら、心地よい揺れとともに私は短い時間だけ眠りに落ちた。



不意に訪れた着陸の衝撃で眼が覚めた。何とか無事着いたことを、隣の席の弟が喜んでいる。まあよく揺れたからね、と私は答えた。


飛行機を出る瞬間は、いつもその国独特の匂いがして、ようやく外国に来たのだと言う期待が高まる。

桃園国際空港の中では、ほんのりと漢方と中華スパイスとお香と独特の湿気を含んだ空気が私を包んだ。ああ台湾に来たのだなあと思う一瞬。

空港内を歩く。ぶらぶらと歩いていると免税店のお姉さんと目が合った。にっこり笑いかけられたのだが、この人の脳内は中国語で思考しているのだよな、などと妙なことを考えた。


そういえば、関西国際空港から飛行機に乗り込み、台湾に到着するまで、周りで聞こえる会話はほとんど日本語だった。なのでてっきり乗客のほとんどは日本人なのだろうと勝手に考えていたが、入国審査では台湾人の方が多かったのには驚いた。日本人と中国人が同数いれば中国語ばかりが聴こえてくるのだが、日本人と台湾人がほぼ同数いれば日本語の方が聴こえてくるのだ。つまり、日本人の方が声が大きく、台湾人の方がおとなしいのだ。この事実は私をひどく驚かせた。


入国審査は一瞬で終わった。日本人以外の外国籍の方は質問攻めにあっているのと比べ、日本人の審査のなんと早いことか。ほぼ最低限しかチェックしていないのは、日本人という集団に対する信頼の表れだろうと思う。


空港を出て、台北市内に向かうリムジンバスを探す。これもまた一瞬で見つかった。非常に分かりやすい動線になっている。

チケット売り場に並ぶ。自分の番になり、とっさに出たのは英語だった。"To Taipei Station, two ticket, please"

チケット売り場のお姉さんは、クソ面白くなさそうな顔をして

「台北駅行き、二枚ですね。二枚で250元ですありがとございましたー」

と流暢な日本語で返した。



バスは少し古かった。時間になり動き出すと、車内の電気は落とされた。ようやく愛用のiPhoneの、wifiをオンにする。桃園では電話は拾えないようだ。

仕方がないので車窓の風景を眺めた。もう真っ暗になった台湾の街並みはどこか懐かしく、「異国に来た」というよりは何ともほっとする感じがするのは父祖の地だからだろうか。あるいは今回で4回目の訪問だからだろうか。おそらくどちらもあるのだろうな、と私はぼんやりと考えた。


バスは台北市内に入ると高速道路を降りた。二つ目のバス停で下車する。さて、簡単な地図はあるのだが、まずはどっちが右か左かもわからない。

さっそくiPhoneを使ってみる。まず、台北市内に入っており、動くバスの中では電波がほとんど拾えなかったが、道端でじっとしているとWifiを拾うことができた。

さっそくGoogle mapを起動すると、たちまち自分のいる位置がわかる。なんか、とんでもない時代になったもんだと思う。あとは宿の位置を確定して、mapの通りに歩いた。意外と宿は近かった。


フロントには同年代くらいのお姉さんが一人で退屈そうに西瓜の種を噛み破っていた。とりあえず英語で、と思い英語で会話を試みた

「We have a reservation...」
「あ、どーぞー。どぞー。はいここ座って、どーぞー、で、まずはパスポート見せてください」

とまた日本語で返ってきた。以前に来た時は、それでも10年前になるが、老人は日本語を話す人がまだたくさんいたが若い人はさっぱりだったのに、なんだかそういう点でも驚きを隠せない。


宿に荷物を置いて、弟のリクエストで夜市に行くことにした。


宿を出て、ぶらぶらと夜の街中を歩く。空港からバスに乗って移動している時よりも、こうして自分の足で歩いているときの方が異国に来たという実感を強く感じる。

途中でセブンイレブンに入る。以前に訪れた時にはお酒を置いている店が皆無だったので、お酒が欲しい場合は自分で購入するしかなかったからだ。コンビニではそんなに多くの種類のお酒を置いているわけもなく、仕方なくというわけではないがとりあえず台湾ビールを1本だけ購入した。


10年ぶりに訪れた士林夜市はがらりとその様相を変えていた。10年前はそれでもまだ屋台が並んでいたのだが、今は市場と一体化して地下の食堂街に成り果てていた。

情緒は全くなくなったが、飲兵衛にはありがたいことに食堂ごとにビールを置いているところが多かった。これは以前にはなかったので驚いた。予めビールを購入していたというのに、嬉しい悲鳴といっていいのかどうか。

さっそく一つの店に腰を落ち着ける。もちろんビール含めていろいろ注文したのだが、意外だったのが、弟が臭豆腐を「旨い! 旨い!」ともりもり食べたこと。そうかそれは良かったね、と一皿のほとんどを一人で平らげる弟を見ながら、台北初日の夜は更けていった。



以下備忘録



往路

出発は関空第2ターミナル。「第2ターミナル」ってなんじゃ? と思ったが、要はLCC専用ターミナルとして建てたようで、今までの関空そのものが「第1ターミナル」になっていた。

そんな第2ターミナルは今のところピーチ航空のみが独占的に使用している。第2ターミナルへの連絡バスの位置がわからなかったので案内所で尋ねたら「ピーチですか?」「ピーチですよね?」としつこく確認された。なんでこんなにしつこく聞くのだろうと思っていたら、第2ターミナル自体がピーチオンリーだった。笑

第2ターミナル自体はプレハブみたいな作りでチープだったが、だからと言ってびゅーびゅー風が入ってくるわけでもなく。カフェもレストランもありそれなりに快適だった。

出国した後もロビーは比較的ゆったりしていた。免税店もあるのだが興味なし。しかし普通の売店(免税? 笑)があり、そこでビールとつまみで出発時間までゆっくりできた。次回第2ターミナルと使うときは、早めに出国してロビーでまったりしたい。席によっては電源もあり、スマホを充電しながら時間をつぶせそう。もちろん無料wifiも飛んでいるので、パソコン持っていってもよいだろう。




通信について。

あまり深く考えていなかったので、まともに調べたのが出発前日。正直これほどのことになっているとは夢にも思わなかった。というのも海外旅行自体が数年ぶりで、今までは海外で携帯を使用することなんて全く考えていなかったのだ。以下てめえの愛するiPhoneについて書き遺しておく。


1.そのまま使う。

なんとこれが可能。何も考えずに渡航先で電波をつなぐことも可能だが、下手をするとパケット代がすべて請求されて数十万円も請求された例もあるらしい。というわけで調べたら、海外でのパケット使い放題もあったのだが、一日約3000円。3泊4日で12000円。うーむ、もうこれでもいいかとも思ったのだが、殆ど電話を使用しない(自分からかけることはまずなく、かかってくるのは悲しいことにほとんど仕事関係)ことを考えるとアホくさくなったので却下。

2.Wifiレンタルを使う

結論から言うとこれが一番良かったと思う。ただし出発前日では申し込みが締め切られていた。電話で問い合わせしたところ、当日に関空の窓口まで行って、在庫を確認しないとわからんと。そんなわけで実際に窓口に行ってみたがやはり在庫はなかった。涙。今後は早めに申し込んでおこうと思った。

3.台湾で無料Wifiを使い倒す

ということで、出発前に台北市の無料Wifiを登録。弟の分も登録したが、結論から言うとこれがとても役にたった。登録もすげえ簡単。


そんなわけで、出発前にiPhoneを「機内モード」にして、台湾到着後にWifiのみOnにした。桃園空港は台北ではないので電波は飛んでいなかったが、台北市に入るとぎゅんぎゅん通じた。



追記

上記のぎゅんぎゅんはちょっと言い過ぎで、じっとしていればWifiの電波は拾うのだが、動くとすぐに切れる。だから日本での動きながらスマホを期待するとそれほどでもないが、しかしほぼ市内全域でWifiが拾えるのには驚いた。ちょっと困ったことがあったら立ち止まって調べ物が可能。ただし結構差はあり、駅やバス停の周辺ではかなり使い物になったがそうでなければいまいちだった。




復路

往路で使用した空港バスが、復路もそのまま使えると思っていたのだが、これが間違いだった。

往路では空港から台北市内への高速バスがあり、空港から高速道路を走って、市内に入ると高速から降りてバス停ごとに乗客を降ろしていく。復路はこの逆をしているのかと思っていたのだが、なんということか復路は台北駅からの直行しかないらしい。このことを知ったのが帰国当日で、ホテルでチェックアウトするときに軽い気持ちで「空港バスの時間は何時やろ?」と尋ねたことがきっかけだった。

往路で降りたバス停は、ホテルから歩いてすぐなので、そこから空港行きのバスに乗ろうと思っていたのだ。

ところが帰ってきた答えは「空港行きのバスなんてない。Go straight to Taipei Station」だった。いやバス停あるやん、行きしに使ったで、とてめえは関西弁をなんとか英語に訳して言った。それは往路だけや、復路はバス停では拾わへんねん、とホテルのフロントのお姉さんは言った。


そんなわけで台北駅に向かった。ちょっと余裕をぶっこいていたのだが、台北駅について驚いた。なんと空港行きのバスには見たこともないくらいの長蛇の列。これは下手すると間に合わないのでは。

詳細はまた今度ということにするが、ちょっと今後は別の方法を考えたい。だってすげえ列にすげえ時間並んでしまい無駄な労力を使ってしまったから。そういえば台北駅から直通のMRTができるとか→調べたら2015年開通予定だって。やっほー。


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