解放区

2014年04月07日(月) 親父の語学熱。

てめえの親父は、春になると語学が勉強したくなるようだ。これは昔からで、いつも4月になると、英語だの中国語だのハングルだののラジオ講座のテキストを買いこんでは、せっせとラジオを聴いていた。

しかしどうしても仕事の都合などで聴きそびれるときがある。そんな時は再放送を聴ければよいのだがそれもうまく時間が合わないことが多く、仕方がないのでラジオを録音することになる。

録音したら時間を作って順番に聴いていけばいいのに、なかなかそういうわけにもいかずに5月に入るころには録音したテープだけがどんどん溜まっていく。

6月になるともう録音することもなくなり、年間購入を決め込んだテキストだけが溜まっていく。毎年の風物詩であった。

そしてまた春になると彼はやる気を見せる。まあ好きにしてくださいって感じ? そして結局英語も中国語も全然ものにならなかった。


そんな彼が「よーし今年は英語を勉強するぞ!」と言いだしたのが去年の春。まあ気持ちはわからんでもないが、短期記憶障害のある彼が英語を勉強することにどれだけの意義があるのだろうか。途方に暮れて母や妹に相談したが「べ、勉強? 短期記憶できないのに? まあ自分ではそこの部分が理解できないだろうし好きにさせたら? 脳みそのリハビリにもなるかもしれないし」などと笑い転げた。

笑えないのはてめえの方で、まあ気の済むようにしてもらおうと英語を勉強してもらうことにした。

「ほな、テキスト買いに行かないと!」とノリノリ(死語)の親父。本屋に連れて行ってくれと言いだしたのだが、彼を本屋に連れていくのはあまりにデンジャラスなので再び途方に暮れた。


仕方がないので、いくつか見繕ってテキストを購入。さっそくノリノリ(死語)で予習を始める父。あまりに楽しそうなので、思わず幸せな気分になってしまいテキストを年間購読してやったぜ。ワイルドだろ?

ラジオも古かったので新しいのを購入した。すると「録音したいのでテープを買ってくれ」とのご希望あり。いやあなた、録音する必要ある? 本放送も再放送も好き放題聴けまっせ。それでも頭に入らなかったら…(以下省略)と言いたくなるのをぐっとこらえて「おっけー」とてめえはテープを買う旅に出ました。


しかし今どきカセットテープ。予想通り量販店には置いておらず、いくつか店を回って途方に暮れた。時代はMDを超えてiPhoneの時代でっせ。はーどでぃすくにろくおんじゃなくってろくがするじだい。おお思わず平仮名になってしまったぜ。


そんなてめえに朗報を届けてくれたのは100円均一の店だった。たまたま入った100均の店に、たまたま置いてあったカセットテープ。その場所が光り輝いて見えたのは果たしててめえだけだろうか。


そんなわけでカセットテープを2本購入。去年の話なので、しめて210円。量販店には置いていなかったそのテープを、てめえは大事に持って帰った。


さてそんな親父。さっそく録音して、音読するする。ある日帰宅するとノリノリ(死語)の親父の横で困惑するヘルパーさんがいた。すみません、言ってきかないものですから、とてめえはなぜか言い訳した。


さていつもの如く、5月には2本のテープがいっぱいになり、6月には音読の声も消えた。親父の部屋には年間購読しているテキストが積み上げられていった。




時は流れて昨日の話。いつものように、呆けた親父と二人散歩をしていた。春の陽気に包まれ、油断すると暴走する父を宥めながら人気の少ない道を選んで散歩をする。

突然彼は立ち止り、言った。

「英語勉強したいねん!」

な、なんだってー! あほかーざけんなよ(以下自己規制)と叫びたい気分をてめえは良く抑えた。

ええとあのう、去年も同じことをおっしゃりましたっけ?

あれ? そうか? 勉強してへんで!

そう、勉強はしていない。ただし勉強しようとはしただろう? とてめえは言いかけた。

「やし、テキスト買いに本屋に行きたいねん!」


あっきさみよー。今年も年間購読した方が良いのか? もうええわ。


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