2014年04月14日(月) |
健康的な食事と食事療法について。 |
医学部は「健康を損ねた人を、いかに治療するか」をひたすら研究しており、そして教育している。したがって、「健康を保つため」の講義はほとんど開講されておらず、結果として意外なほど医者は健康について知らない。
健康についてのアドバイスを求めると驚くほど的外れなことが言う医師がいるのはこのせいである(とくに外科系に顕著な印象がある)。これは一般的には意外だと思われるが、真実である。
健康な個体を研究しているのは、生理学をはじめとする基礎医学の分野になるが、それでも「いかに健康を保つか」について研究している人は驚くほど少ない。
そもそも、医者自体が不健康な生活を送っている。激務でまともな食事を摂れないということも理由の一つになりそうだが、それだけではないと個人的には考えている。減塩を説く医師自体が塩分リッチな外食に頼って降圧剤を飲んでいたり、減量を説く医師が糖尿病だったりする。ほとんどブラックジョークな状態。
これはなぜか。答えは簡単で、医師自身が健康について知らないからだ。てめえも恥ずかしいことに、ある時期までは、異常が出れば薬を飲めば良いと思っていた。自分が高血圧になっても、経験上減塩の効果はたかが知れている(実は、患者自体がきちんと減塩できていないだけ)。それなら薬で一気に下げたほうが楽しい人生ではないか。美味しいものを食べて薬で正常化する。現代科学バンザイ!
おそらく多くの医師は、今でもそう考えていると思う。同業者ながら正直残念なことだよな。
てめえはある時に「自分はあまりに健康について知らなさすぎるので、健康について勉強してみよう」と思った。しかしいろんな研究結果がある「病」とは異なり、健康については実に「百花繚乱状態」で、正直とまどったのだ。そして、健康について勉強すればするほどわけがわからなくなった。
そんなときに、井上氏の「健康方程式」に出会って、本当に全ての憑きものが落ちた。そしててめえの健康も回復しました。井上氏には本当に感謝している。
「健康」について語る時、避けられないのが「食事」と「運動」である。後者はまた今度にするとして、食事療法について書かれたものをまとめるとだいたい次の4つに収束される。
1.単なる妄想。
「○○が健康にいい!」(○○にはいろんな健康食品もどきが入ります)ってやつで、なんの根拠も演繹もない、まさに「勉強する価値の一ミリもない」もの。まあ、ほっとけばいつかは廃れるのだが、それでも雨後のタケノコのように次々とまあいろいろ現れるよな。そういうもので結局しっかりした評価があるものなんてひとつもあれへんで、いい加減学ぼうや。
2.理念が先にある。
「こういう食べ方をすれば、健康になれる」というもの。玄米食がいいとか、菜食がいいとかである。マクロビもここに入るかと思う。その根底は科学的根拠ではなく、どちらかというと宗教的観念的なものが見えることが多い。結果として良い結果になることはあるかもしれないが、根拠がない以上「自分が好きでやるのは良いが、人に勧めようがない」ものとなる。しかも議論のしようがない。
3.統計から演繹する。
さてこの辺から、ようやく学問というか議論に耐えうる健康食になる。例えば「動物性たんぱくを取ると取らない人よりも短命になる」みたいなもの。マクガバン報告なんてそうだよね。他にもいくらでも実例はあるが、ただしこの統計に頼る方法には落とし穴がある。
「食生活を含めてその他の生活習慣も健康に気を使っている人は、そもそも動物性たんぱくを取らない」という反論が成り立つのだ。つまり、動物性たんぱくを取らないから長生きするのではなく、長生きしたい人は動物性たんぱくを健康に留意しない人より取らないだけ。
なんか詭弁にも見えなくもないが、本来科学とはそういうものである。本当に動物性たんぱくを取らない方が健康になるということを証明するためには、同じような嗜好を持つ人をたくさん集めて、強制的に動物性たんぱくを取る群と取らない群に分けて統計を取るしかない。
そういう研究がデザインできない限り、統計による結果は正直怪しいものになる。
でしょ? 例えば、かなり乱暴だが「日本人は塩分摂取が多い。そして、世界でも有数の長寿国である。したがって、塩分は体に良い」という言い方も可能になるし、実際にそういう主張をしている人はいる。他のファクターを一切考えない暴論であるのはちょっと考えたらすぐにわかる。
4.生理学より演繹する。
以前はこういった方法はなかった。これもまた落とし穴はあるかもしれないが、今のところ最も科学的である可能性があると考えている。ていうか、むしろ今までこちらからのアプローチがなかったのが不思議でたまらない。
人間はなぜ食事をするのだろう? 答えは簡単で、エネルギーを得るためである。エネルギーがないと人間は動けない。
では「エネルギーを得た」状態とは何か。それは、「全身の細胞にエネルギーが充填された状態」である。
我々が食事をする。食べたものはいったん胃にため込まれる。ちなみに胃は単なる貯蔵庫で、それ以上の働きはない。厳密に言うと水分とアルコールは吸収するが、栄養分は吸収しない。アルコールを飲むとすぐに効果が現れるのは、胃で吸収されているからである。
胃にため込まれた食物は、少しずつ腸に送られ吸収される。ここで吸収されないのが「吸収不良症候群」で、食べてもエネルギーにならない。
栄養分が吸収されると、その栄養分は血液に取り込まれる。そして、全身の細胞に届けられる。ここで全身に栄養分(この場合、糖質になる)が届けられないのが「糖尿病」という病気の実態であり、血糖値が高いのは、細胞内に糖分が届かないからである。
細胞内に栄養分が取りこまれて「充填」は終了する。ここまでのプロセスがあって初めて食事は意味を為す。
なので、胃が空っぽであるということと、全身にエネルギーが充填されているということは本来別の話なのだ。ここを勘違いしている人がいるので、胃が空っぽだからと食事を摂ろうとする人がいるが、全身の細胞に栄養分が行き渡っておれば食事はあえて摂る必要がないのだ。
もう何が言いたいのか理解できると思うが、これが「朝食は不要」であるという論理の根幹である。そして、これを理解した時てめえには人生の中で最大級の衝撃を受けた。なぜなら、今までそういう理解をしている人に出会ったことがなかったからだ。
晩御飯を食べる。この成分は吸収されて全身に行き渡る。昼夜逆転している人を除けば夜ごはんのあとなんてごろごろするだけであり、エネルギーを使用することもない。また、使用するエネルギーも昼食由来のものである。
なお、体内での脂質合成は夜中に行われるので、夕食で酸化された脂を摂ってはいけない。悪玉コレステロールの原料をわざわざ提供するのと同じだからである。
そんなわけで、朝起きた時、我々の前身の細胞にはエネルギーがギンギンに詰まった状態となっている。もうお分かりと思うが、この状態でエネルギーを摂ってはいけない。朝エネルギーでギンギンにするのが夕食の役割であり、したがって朝はそのエネルギーを使うのみである。ここで新たにエネルギーを摂っても余分なエネルギーになるので、体はこれを貯蔵しようと脂肪合成に走る。
しかも食事を摂ると血液は腸管に集まるので、脳みそも臓器もうまく働かない。アスリートはそれを経験的に良く知っているので、試合のある日などには朝食は取らない。しかし、それでスタミナが切れるなんて聞いたことがない。力士は朝食を食べずにぶっ続けで何時間も稽古をするが、これは朝ごはんを食べるとトレーニングにならないということを経験上知っているからである。マラソン選手も競技前には何も食べないが、42.195kmを走りきる。
「健康方程式」が素晴らしいと思ったのは、健康的な食事はカロリーや栄養素の分配ではなく「何を、どのタイミングで食べるか」というところを重視したことにあると思う。いつ、何を食べるか。それを守りさえすれば、後は細かいことは言わない。simple is best。
一日の食事量を1600kcalと決めて、30品目以上食べる、炭水化物は何%、脂質はどれくらい、ω3/ω6比は1:1〜1:4。健康に興味のある、自炊する人ならこれは実施できるかもしれないが、世の中そういう人の方が少ないのだ。
なので、朝食べない、昼は炭水化物重視、夜は大豆を主に炭水化物を食べない、というシンプルな方法は本当に素晴らしいと思う。三食食べて1600kcalって、結構厳しいよ。しかも普通の人は全食にコメをつけようとするので、それで30品目以上は正直困難。しかも炭水化物の割合がとても多くなる。
朝食を取らなければ、少なくともコメは最大で2回。おかずも増える。それを「夜の炭水化物はやめましょう」とすることで、30品目は現実的になる。しかも、大豆製品を多く摂れば脂質はそれだけ少なめになる。
そんなわけで、意外と考え抜かれた食事方法と思う。てめえはてめえで実践し、尿酸値やコレステロール値が改善しただけではなく花粉症まで改善した。
問題は臨床的に実践するのが難しいということ。てめえは初めは頑張って「朝食やめましょう!」と指導していたが、あまりに一般的な常識(こっちが間違っているのですよ、念のため)と乖離していたため「こいつはヤバいのではないか」と思われることが続出した。そんなわけで、今は理解できそうな人だけに指導することにしている。
まあ、日本人が朝食を食べだしたのは明治以降で、始めたのは陸軍なんだけどね。伝統的な日本人の食事はそもそも朝ごはんはなかった。
昨日読んだ「一日一食」は、科学的な内容はあまりなかったが、結論は井上氏と同じで笑ってしまった。ただしこの方は「塩分をたっぷり摂ろう」などとちょっと受け入れられない内容も書かれていたので、正直買うだけ無駄だったかも。しかも引用論文の妥当性も適当ではないと感じた(そもそも、出典が書かれていなかったので自分で調べたぜぇ。ワイルドだろ)。やっぱり健康方程式が素晴らしい。批判できる部分が一つもない。
#塩分摂取についても書きたいことがあるが、これだけですげえ内容になるのでまた今度。結論を言うと「塩分排出力のある人は制限する必要はなく、排出力のない人は制限せざるを得ない」ということ。もちろん、後者が「高血圧」になる人々である。逆に言うと正常血圧の人はあえて制限する必要はないと思う。
#コレステロールが高いということで来院される方は多いが、てめえの指導する食事療法(揚げパンやスナック含め揚げ物を食べない、夜に炭水化物を摂らない)で正常値に戻る方が多く正直驚いている。他のDrはさっさと薬を出しているし、その方が病院経営には良いのだけど。今日もLDLコレステロール180くらいあって受診を指示されてめえの外来に来た人が、食事療法だけで正常値に戻った。体重はむしろ増えていてご本人は驚かれていたが、てめえ的には当然の結果と思っている。ちなみに運動療法はされなかったそうだ。
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