解放区

2014年04月17日(木) 夕凪の街、桜の国。

とてもとてもとても大好きな漫画。購入してからだいぶと経つが、折に触れ大切に読んだ。おそらく、何百回も。

Kindleストアで電子書籍になっていることを最近知り、すぐに購入した。これで、死ぬまでてめえのkindleちゃんの中に入り続けることになる。そして、iPhoneでも読むことができる。

最近、この物語を読む度に涙が止まらない。そして、死ぬまでそうだと思う。



大人になってから、涙なんて出なかった。担当の患者さんが亡くなっても、悔しくて悔しくて残念で、でも涙は出なかった。いつしかそれを受け入れることが仕事になっていった。そうでないとこの仕事を続けていくことは難しい。そして淡々と死亡診断書を書く。人が亡くなることは大変なことだが、受け入れないと先に進めない。

社会人になって初めて涙が出たのは、大学の同級生かつ同僚が自ら命を絶った時。あの時、葬式の場で、てめえは周りを憚らず号泣した。自分でもそんなことになるとは思わなかった。

彼が埋葬されたとき、墓の前で再度涙が出た。それが二度目。


三度目の涙は、患者さんが亡くなった時。ずっと診ていた人で、最後は癌の末期だった。身寄りが全くなく、本人には癌の末期であることは伝えていたが少し理解の乏しい人で、本当に理解されているのかわからなかった。

そういった場合、通常は家族に詳しく説明するのだが、その家族が彼にはいなかった。

「急変した時どうするの? 方針決めてもらわないと困るんですけど」と、ナースはひたすらてめえを責めた。でも彼は、自分が死ぬ時どうしたいか? ということを理解してくれないだろうということは分かっていた。急変時の対応を彼女たちが急ぐのは、自分の仕事を減らしたいからである。てめえは全てを自分で受け入れることを決めた。

何かあったら休日でも深夜でも自分に連絡してほしいとてめえは言った。それきり、ナースからの催促はなくなった。


ある日の午前3時頃、てめえの携帯が鳴った。来るべき時が来たのだろうな、とてめえは電話を取った。

すぐに病院に向かう。彼の意識は朦朧としていて、来るべき時は近いのだろうということがすぐに理解できた。

意識が混濁していた彼は、てめえの到着と共に目を開けた。その時の彼の顔は、一瞬正気に戻っていた。

「おれ、死ぬんか?」

死ぬんか。人間の最後の疑問を思いっきりぶつけられたような気がして、てめえは一瞬うろたえた。

「ええ、お迎えが近いようですよ。」

何とか言葉を発しててめえは彼の手を握った。そう言ったきり、再度彼の意識は混濁した。

それからしばらくして、彼は息を引き取った。あらゆる延命治療は、てめえの判断で行わなかった。今後彼の親族を名乗る人が現れて、治療を放棄したと訴えられても飲み込む覚悟をして。

てめえはいつものように死亡診断書を淡々と書いた。もう朝は明けようとしていた。


全ての書類仕事を終えて、個室に移された彼の部屋に行った。顔の上に掛けられた布を取ると、まるで眠っているように安らかな彼の顔があり、てめえは思わずその場で号泣してしまった。

てめえが患者さんのことで涙したのはこれが初めてで、たぶん最後だと思う。


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い・よんひー [MAIL]

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