何かの気配を感じて、 目を覚ますと、
ダンナが私の顔を覗き込んでいて、 「愛してるよ」と言った。
一気に目が覚める。
ああ、 眠ってしまったようだ。
今日はめずらしく、 飲んでくると電話があり、
夕食の支度を免れたことに、 嬉々として布団の上で、 ダンナの貴志祐介「黒い家」を、 ひまつぶしに読んでいたら。
ダンナはトランクス一枚で、 床にしゃがみながら、 もう一度「愛してるよ」と言った。
「おかえりなさい。 酔っ払ってるんだね」
彼が甘い言葉を口にするのは、 泥酔している証拠だ。
「吐いちゃった」
無防備な瞳で微笑む。
弛緩しきった顔をみながら、 心底彼を愛していると思った。
彼をこんな彼に育んだご両親のことも、 本当に愛していると思った。
私をこんな私に育んだ母親のことすら、 まだ愛せないというのに。
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