Sun Set Days
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2001年11月11日(日) 『センセイの鞄』

『センセイの鞄』読了。川上弘美、平凡社。
 ずっと前から、気になってはいたのだ。と言うのも、江國さんを好きな人たちがこの作家を好きな率が以上に高いような気がしたから。また、作家同士も仲がよいようで、一緒にトークショーなども行っているということだし。それはつまり、似た感覚、もちろん個々はオリジナルな存在ではあるとしても、同じベクトルの作家ということなんだろうかと、なんとなく思っていたのだ。
 それでも実際には手を出してはいなくって、それで昨日、会社からの帰りに、駅のなかにある書店でハードカバー売場を見ていたら目に入って、それでなんとなく手にとって、なんとなく買ってしまった。そういうときもある。そして読んだ。読みやすいのですらすら読むことができて、0時を過ぎる頃には読み終わっていた。
 読み終わった後に、僕は部屋の近くにあるコンビニまで日本酒を買いに行った。
 主人公のツキコさんとセンセイ(カタカナなのが重要。変換に気をつけよう)は、サトルという店主のやっている小さな飲み屋で、いつもいつもお酒を飲んでいるのだ。その店での描写がやたらと多い。2人は、それぞれ季節の肴と一緒に日本酒をおいしそうに飲んでいる。それだったから、読んでいる途中から読み終わったらお酒を飲もうと決めてしまっていた。1人でふらりとそういう飲み屋に行くのもなんだったから(時間も遅かったし)、結果としてコンビニにお酒を買いに行くことにした。これは、部屋で1人でお酒を飲むことがまずない僕にとってはかなり珍しいことだ。それくらい、その描写が淡々として心惹かれるようなものだったのだ。
 ただ、結局日本酒は買わなかった。コンビニの日本酒売場でいろいろと見比べていたのだけれど、結局どれも自分には度数が強すぎるような気がして手を出せなかったのだ(残してももったいないしと思ったし、でも小さな紙パックはあまりにも味気なさ過ぎるし。お酒飲みの方には信じられないかもしれないけれど、お酒が弱いっていうのはそういうことだ)。
 でもお酒が飲みたいという盛り上がった気分は抑えることができなくて、結局妥協案として350缶のビールをひとつとコンビニおつまみ(スルメ)を買って帰った。スルメを買うのなんて何年ぶりだろう?
 弱すぎる……
 まあ、そのうち作中に出てきていたような飲み屋で飲む機会はあるだろうから、そのときにはちょっと頑張って日本酒を飲んでみようとは思ったのだけれど。

 話がずれてしまったけれど、読み終わって思ったのはこれは大人の小説だなということ。主人公たちの年齢がということではなくて(もちろんそれもあるけれど)、その一人一人の拠り立つ様が、自立を前提としているということだ。自立した人同士が恋に落ちて、近づいていく様だったから。だから、あと何年かして僕がもっと成長して大人になることができたら、もっとずっと感じ入ることができるかもしれない。
 そう思った。
 文章はとても読みやすくて、当たり前のように馴染んでいる古風な言葉や表現も新鮮で(適度に鍛えられた体みたいな文章だった。贅肉がほとんどなくて、でもガリガリなわけではなくて均整の取れた文章)、また二人の性質のようなものにも好感を持つことができた。作者はかなりさっぱりとした潔い人なんだろうなと思った。昔の作家の書く小説のように、日本の私小説という感じがあった。
 細部も面白くて(それってよい小説の条件のひとつだと思う)、たとえば『近郊への楽しいハイキング』にきのこ狩り、湯豆腐、ハンケチ、島への旅行、小山羊たちやという文章に、携帯電話についてのやりとりなど、どれも面白い。
 物語は、かつての高校教師と再会した30代の女性が、その30以上年齢の離れたセンセイとゆっくりと恋に落ちていくというものだ。とりたてて特別な波乱やエピソードがあるわけではなくて、淡々と、あくまでも散歩をするようなペースで物語が進んでいく。思うのは、どんな人であれ、恋をするとその人なりのやり方で感情を動かすのだということ。それはある意味恋愛体質じゃないツキコさんもそうだし、もっとそうかもしれないセンセイだってそうだからだ。それぞれの人のやり方で。だから、恋愛小説はたくさんあるし、たくさん読まれるのだろうなとも思う。そのそれぞれの距離感に納得したり共感したり疑問を抱いたり。
 この2人は、本当に駅ですれ違う人たちみたいだった。どこにでもいるような、と言ってしまったら変な言い方かもしれないけれど、町ですれ違う人たちがこういう恋愛を育んでいても違和感のないような、そういう地に足のついたリアリティのようなものがあって。
 江國さんとは似ているところはあるかもしれないけれど、やっぱり似ていないよなとは思った。
 それはもちろん、個々の作家がオリジナルであるのだから当然なのかもしれないけれど。
 面白かったけれど、本当によかったなあと思えるには、まだ自分が幼すぎるかなとは思った。


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 もう11月も中旬に入り、街はそろそろ冬の気配を色濃くしている。
 何度も書いてきているように、冬や年末の押し迫ったような気配がとても好きで、もちろん寒くはあるのだけれど、寒さは暖かい格好をしていればいくらでもなんとかなるので、この時期になるとやっぱり嬉しくなる。
 街を歩いていると、もうたくさんの人たちがコートなんかを羽織いはじめている。思い思いの巻き方でマフラーを巻いたり、帽子をかぶったり、手袋をしたり。耳かけはさすがにまだ見ないけれど、そういうのを見ているだけで楽しい。とりわけ、人のコートって、本当にどこで見つけたのだろうっていうくらいたくさんの種類があって、面白い。個人的には何年か前に流行ったピーコートは苦手で、ダッフルコートが好きだったりする。
 あと、カバンを見るのも結構好きだ。いろんな人がいろんなカバンを持っている。そして女の人用のもののほうがたくさんのデザインがあるように思えてしまってうらやましくはあるのだけれど、男用にもまあたくさんの種類がある。最近の若い男の人たちは吉田カバン系のものを持っている人がやたらと多いのだけれど、あれはあれでやっぱりとてもよく出来ているとみんな言うので、実際に使いやすいんだろうなと思っている(僕は買ったことがないのだけれど)。
 いずれにしても、駅にいてたくさんの人を見ているのは面白いと思う。
 まあ、僕が利用している駅はJRから私鉄に乗り換えるためにダッシュする人がたくさんいたりして、鬼気迫るものがあるのも事実なんだけれど(たまにはじき飛ばされて、くるくる回ってしまいそうだと思えたりしてしまう)。


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 お知らせ

 一度、本当にくるくる回っている人を見てみたいものです。


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