Sun Set Days
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S氏の手記より抜粋。
そう、あれは2月後半のことでした。仕事帰りに、私はいつものように近くの森を抜けて帰ろうとしていました。その森は夜になると照明もなく真っ暗なのですが、それでも10分の近道は疲れた身体には変え難いものだったのです。それで、そのけもの道を歩いていると、森の奥で何かがうなるような声が聞こえてくるのです。私はなんだろうと思って、ついついその音の方に近づいていってしまいました。 まさかあんなことになるなんて知らずに……
その音の方には、奇妙な円盤のようなものがありました。 そして、頭が大きくて、身体がやけに細い緑色の不思議な生き物がいて、思わず声を上げてしまった私に気が付いたのです。
ミツケタ。
その生物は、電子の合成音のような声でそう言うと、驚くべき跳躍力で私の方まで飛んできました。この距離ならなんとか逃げることができるかもしれない、まさにそう思った刹那でした。私はその緑色の生物に押さえつけられ、ものすごい力で、彼らの円盤のようなものまで引きずられていったのです。なんだか生臭いにおいがしました。助けてと言いかけましたが、気を失ってしまい、その声は声になってはいなかったのではと思います。
次に気がついたときには、私は手術室のようなベッドの上に縛り付けられていました。 私の周囲には4匹の緑色の生物が立っていました。 彼らは興味深そうにその大きな三つの目(そう、彼らは目が3つあるのです。ひとつは額の位置に)を私に向けてきます。私は、そのときにもまだ自分がどのような事態に巻き込まれてしまったのかがまだうまくつかめずに、ただじっと黙っていました。
キガツイタヨウダ。
1匹がそう言います。彼らの声は、くぐもった電子音のようです。私は、この声は実際に耳に聞こえてきているのか、それともテレパシーのようなものなのかを考えていました。これはまるで、よくテレビの特番なんかでやっているような出来事です。そんなことが、まさか自分の身に降りかかるなんて……私はそう思って天井を見つめました。 私はごく普通の会社員です。 それなのに、たまたま近道をしようとしただけで、いつの間にやら不思議な円盤の手術台のようなところに縛り付けられているのです。あまりに現実離れしすぎていて、逆に心は平静でした。
ナマエハナントイウ?
一匹がそう訊いてきました。私はやけになっていたのかもしれません。私はどうせ解剖か何かをされるのなら、もう適当に答えてやればいいやと思いました。どこかでは自暴自棄になっていたのかもしれません。
林家こん平。
私はそう答えました。もちろん、それが落語家の名前だっていうことくらい私だってわかっています。けれども、そうでも言わないことには、やりきれなかったのも事実なのです。
ハヤシヤコンペイ?
そうだ。
ドコニスンデイル?
チャーザー村でーす。
チャーザームラ?
ああ、チャーザー村だ。とても寒いところさ。
トテモサムイ?
そう。とても寒い村だよ。
ナルホドナルホド……
緑色の生物たちは、お互いに顔を見合わせています。
オマエタチノホシノトクチョウヲオシエナサイ。
え?
私は聞き返しました。コノホシノトクチョウ?
この星の特徴……? 特徴は……
私は少しだけ考えるふりをしました。どうせこのまま殺されてしまうかもしれないのです。だったら、適当に答えてやれ、そう思っていました。 それで、私はこう言いました。
私たちの星の特徴は、夢や希望に溢れているところです。
ユメヤキボウ?
生物たちが、驚いたように顔を見合わせます。
はい。夢や希望です。それから、誰もが、自分たちの目標を持っていて、その目標をかなえるために努力しています。人々は助け合い、決してあきらめるということを知りません。未来は明るいって、誰もが信じています。
ソレハホントウナノカ?
本当です。今年より来年が、来年より再来年が、よりよい世界になりますようにって、みんなで手を取り合って協力しています。
ジャア、ソウイウホシニイキテイルオマエハシアワセカ?
4匹のうちで一番偉そうな(ひげのようなものが生えている)生物がそう問いかけてきます。
ええ、幸せです。とても。
私はそう答えました。その声には、自信がみなぎっていたのではないかと思います。すると、4匹はお互いの顔を見合わせ、なにやら聞き取れない言葉を発し始めました。
そして、4匹はうなづきあうと、
ソンナニスバラシイホシナラ、ケシテシマウノハシノビナイ……
と私に語りかけてくるのです。
コワガラセテシマッテモウシワケナイ。
緑色の生物はそう言うと、私の額に手をかざしました。すると、どうしてか眠たく……なってきて……
気が付いたときには、私はもとの森にいました。周囲はすっかり明るくなっていて、時計を見ると5時を示しています。午前5時のようです。 私は、身体の節々が痛いのを我慢しながら、森の中から国道に出ました。 そんな早い時間でもトラックをはじめとする、たくさんの車が走っています。 空気はにごっているのか、雲の色は濃い灰色です。 道路の向こう側にあるコンビニの前では、若い男たちが数人で固まっていて、その前にはバイクが並んでいます。 道路わきを、紙袋が風を受けて転がっているのが見えます。
私は、緑色の生物に向かって言った自分の言葉を思い出しました。
私たちの星の特徴は、夢や希望に溢れているところです。
そして緑色の生物はこう言いました。
ソンナニスバラシイホシナラ、ケシテシマウノハシノビナイ……
もし、この目の前に広がっている私たちの本当の世界を知ったら、彼らは一体どうしたのでしょう? やっぱり、シノビナイとそのまま消さずに残してくれるでしょうか、それとも……
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Daysの更新はかなりひさしぶり。 ホームページを立ち上げて以来、こんなに間が開いてしまったのははじめてだと思う。 3日前に出張から自分の部屋に帰ってきてはいたのだけれど、それからも何かとばたばたとしていて、今日ようやく更新する時間を作ることができたのだ。 普段の出張ならホテルなどでインターネットに繋ぐことができるのだけれど、今回は繋ぐことができない状況にいたので、それで更新が開いてしまった。 もちろん、それは緑色の生物に拉致されていたからというわけではなくて。
ちなみに、現在記憶に間違いがなければ18日連続で出勤していて、明日はひさしぶりの休日の予定だったのだけれど、急遽1泊2日で大阪に出張に出掛ける予定にしてしまったのでやっぱり出勤。 でもまあ、週末は休むことができそうなので、ぜひ『ロード・オブ・ザ・リング』を観に行こうと思ったりしているのだけれど(たのしみ!)。
この数日間に、『ザ・ゴール2』というビジネス小説を移動時間を利用して読了し、小沢健二のアルバム『Eclectic』を購入した。 今日は仕事が終わった後同僚とご飯を食べてきたのだけれど、その帰りに鬼束ちひろのアルバム『This Armor』を購入した(自分の部屋に着いたのは午前0時過ぎ。現在、このアルバムを聴きながらDaysを書いている)。
仕事は天気のようなものなので、晴れの後に雨やときに嵐が訪れるのはたぶん当たり前のことだ。晴ればかりの地方なんかありえないわけだし。 だから忙しいことに関しては、そういうものなのだと思っているし、僕のいまの仕事でこの時期に忙しくなかったらかなりまずいのだろうなとも思っている。
ただ、忙しいときでも自分のペースのようなものをちゃんと確保するためには、自分の中に目には見えない傘をしっかりと用意しておく必要がある。 あるいは、目に見えない雨合羽を、しっかりと着込んでおく必要がある。 そうすれば、嵐が訪れたとしても、なんとかやり過ごすことができるし、場合によってはそういう天気のときでも、外に出て行くこともできるのだ。 終わらない嵐はないので、そうこうしているうちに、必ず晴れにもなるだろうし。
そして、今日で幾つかの仕事のうちのウェイトの大きかったものがひとつ片付いたので、気分的には重いリュックサックを下ろしたような感じだ。 それでちょっと浮かれていたのだと思う。 鬼束ちひろのアルバムを買った店では本やゲームも一緒に販売しているのだけれど、浮かれていたせいか、自由に遊ぶことができるようになっていたX-BOXをやってみたりもした。 格闘ゲーム。 ゲームなんて、前にやったのがいつかわからないくらいひさしぶりだよ、とか思いながら。 新しい物好きなので、X-BOXがちょっと欲しくなったりもした。 実際にゲーム機をひとつ買うとしたら、PS2になるのだろうけれど。
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前述の通り、鬼束ちひろのアルバムを聴きながらこの文章を書いているのだけれど、個人的には彼女の詩や曲や声は結構ツボにはまる。 最近は、アラニスにしてもブランディーにしても、そして小沢健二にしても、いわゆる当たりのアルバムが多くて困ってしまう。 聴くことのできる時間の方が短いような気がするのだ。 でも、まだ何度も何度も楽しむことのできるアルバムが何枚もあるという状況は単純にうれしいのも事実。
音楽にはいつもいつも助けられてきたけれど、このシーズンもやっぱりそうなりそうだ。 忙しいときでも、音楽はプレイのボタンを押すだけですぐに近くに降ってくる。 それってすごい! とそのたびにあらためて、いつもいつも思う。
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僕はときどき、忙しくなると眠る前にどこか遠くの町の光景を想像してみる。 自分ではそれほど意識していないのだけれど、疲れているときにそうしていることが多いのかもしれない。 ただ、訪れたことのある場所の記憶を微妙に編集した、あるいは映画や本のイメージをパッチワークしたような、そういうよく知っているような見知らぬ場所をイメージするのだ。 そこはたとえば夜の海であったり、人気のない商店街だったりする。 そして、想像力を頑張って働かせて、その遠くの町を歩いている自分を想像するのだ。 それは結構リラックスできる作業だ。 いつもそれをしているうちにいつの間にか眠ってしまうのだけれど、それでもそういう見知らぬ町のなかをゆっくりと歩いている姿を想像するのはただ単純にたのしい。 ときに想像は随分とリアルで、小林精肉店のシャッターは夜だから閉まっていてとか、交差点の喫茶店のモーニングセットはトーストと卵だとか、商店街から海岸道路の方に向かうと、砂浜に下りるための5段くらいのコンクリートの階段があるとか、そういうディテールがどんどん浮かんでくる。たいていの場合、そういう想像は地方の小さな町であることが多くて、海沿いだったり湖沿いであったり、山間の村だったりする。 そして、しばらくしても眠れないときには、いつの間にか自分がその町を歩いているという想像から、その町に住んでいる人たちの物語にすりかわっていったりする。 そういう見知らぬ町の物語。 それはそれで楽しいのだけれど、たいていはその途中でいつの間にか眠ってしまっているのだ。 そして起きたらどんな物語を考えていたのかも忘れてしまっている。 そういうときには、もちろんちょっとだけ悔しいのだけれど、それはそれでいいかなと思うのも事実だ。
いずれにしても、眠れない夜や疲れている夜には、僕は羊を数えるかわりに、どこか遠い町を想像してその中を歩いてみる。
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お知らせ
そういう想像の町の地図を描くのも面白いかもと思います。
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