Sun Set Days
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2004年02月11日(水) 最後のマフラー

 マフラーのことをときどき考える。
 たとえば今年、最後にマフラーを巻くのはどんな日なのだろう、とか。

 先日の晩、眠れずに起きていたときにコンビニに行こうと思い立った。時計は2時過ぎをさしている。外に出るには少し遅すぎる時間だ。
 そのときは紺色のトレーナーにジーンズという格好でパソコンに向かっていたのだけれど、その上に厚手の上着を羽織って、ジッパーを上げる。それからマフラーを首にぐるぐると巻きつける。最後にiPodをマイレート5(☆5つの曲ばかりを集めたプレイリスト)にセットしてジーンズのお尻のポケットに入れて準備完了だ。
 玄関でブーツを履いて、部屋の外に出る。午前2時を過ぎていることもあって、やっぱりかなり冷え込んでいる。
うう、とちょっとだけ思って(やっぱり行くのやめようかな)、それでもドアの鍵をかちゃりと締める。
 階段を下りながらリモコンのプレイボタンを押す。まず、Celetiaの「God only Knows」が流れはじめる。社会人1年目の冬に購入したCDに収録されていたもので、個人的な☆5つをつけているのだからもちろん大好きでいままで何度も聴いてきた曲だ。Celetiaが甘い声で「You’re the one,I love you〜」と繰り返し歌っている。

 近くのコンビニまでは、少し急いで歩いて5分ほどかかる。途中の道は閑静な古くからある住宅街で、深夜2時ともなると人気もほとんどなく随分と静かになる(何度も書いているけれど、男に生まれてよかったと思うことのひとつは、夜や朝に思い立ったときに外に出ることができることだ)。
 遠くの町から犬の鳴き声でも聞こえてきそうなほど静かだけれど、鳴き声は別に聞こえてこない。寒い寒いと、マフラーに顎をうずめて歩く。マフラーはとても暖かくて、安心させてくれる。

 そしてふと、マフラーを最後にするときっていつなのだろう? と思う。
マフラーがいらなくなるときは、もちろん寒さが遠ざかっていくときだ。けれども、そのきっかけはなかなか難しい。冬が背後へと過ぎ去り、春の足音がすぐそこまで聞こえてくるようになっても、思い出したかのようなやけに寒い朝や夜がある。そんなときには、もう今シーズンも終わりかなと思っていたマフラーも再び引っ張り出される。そういう寒さは、過ぎ去っていく季節が忘れ去られることに抵抗して、いじけて駄々をこねているみたいに感じられる。ぐずついた子供がなかなか泣き止まないように、季節の変わりも目もなかなかぴったりとかさっぱりというわけにはいかない。結構しめっぽくて未練がましい感じだ。
 少しずつ、進んだり戻ったりを繰り返しながら徐々に移り変わっていく。
 そんな日々が続いていく中で、マフラーの方も出したりしまったりを繰り返す。

 そして、結局は毎冬最後にマフラーをする日のことなんて覚えていない。いつの間にかやめている。
 半袖をいつ着なくなったのかなんてなかなか覚えていないように、春の終わりや、秋の訪れを明確には区別できないように、マフラーを最後にぐるぐると巻く日のこともちゃんとは覚えていない。覚えている意味も意義もないし、結局はただの防寒具だ。
 それでも、冬の終わりの時期には何度か「そろそろかな」と思う。
そして、ふいにそんなふうに思ってしまった日には、いつもよりほんの少しだけ長く歩いてみたくなったりもする。マフラーを巻いて散歩をするとそうでないときと比べて全然暖かいので、「散歩(マフラーつき)」は冬のささやかながら楽しいことのひとつに数えられることだと思えるのだ。
 ほんの少しだけ、去り行く季節に思いを巡らせながらてくてくと歩く。首周りは暖かくて、耳回りは冷たいままに。でもやっぱり暖かくなっているので、ちょっと汗ばんだりしながら。
 でもその日もきっと最後にはならなくて、その後も何度かマフラーを巻く。そして、いつの間にかマフラーは最後の日を超えている。

 もちろん、8ヶ月もすれば再び冬が訪れる。そうしたらまたマフラーをぐるぐると巻くだろう。それは同じマフラーかもしれないし、(おそらくは)衝動買いしてしまう新しいマフラーかもしれない。
 いずれにしても、やっぱり暖かいなと思いながら、マフラーをぐるぐると巻いて、おそらくはいまとは違う街を歩ているのだと思う。
 そのときには今年の冬にマフラーを巻いて歩いたたくさんの場所のことを、ほんの少しくらいは思い出すことができるのだろうか?
 それとも、そんなことなんか全然思い出したりもせず、ただ新しい場所のそのときには既知のものとなっているはずの景色を眺めているのだろうか?

 マフラーのことをときどき考える。
 たとえば今年、最後にマフラーを巻くのはどんな日なのだろう、とか。
 カラフルなマフラーはバーバパパを連想させるよなあ、とか。


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 お知らせ

 マフラーはすきなのですが、手袋は持っていないのです。理由なんかないのですけど。


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