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■イロトリドリノセカイ 今、君の見ている世界は何色?
色で満ちあふれている世界。なのに相変わらずのモノトーンの服。肌は外国の血が混じっているだけあって透けるように白い。その白さが、却って服や髪、瞳の色をよりいっそう際立たせていた。 眉目秀麗、と言えば表現が在り来たりかもしれないが、そうとしか形容の仕様のない、非の打どころのない綺麗すぎる顔には、今は眼鏡が掛けられている。鋭い視線は書類の先。彼は英国の上司、森まどかから送られて来た論文用の資料に目を通している真っ最中なのだ。 しかしいつまでも眺めている訳にも行かない。麻衣は既に開けているドアの扉を、片手で軽くノックした。 「お茶だよ」 「ああ」 麻衣が扉を開けていた事には気付いていたのか、麻衣の言葉にナルは書類から視線も上げずに頷くだけだ。例え集中していて気付いてなかったとしても、それくらいで驚くような根性は、生憎この男は持ち合わせてはいない。 可愛くない、と胸中で麻衣は拗ねたように呟く。 一応、麻衣はナルの恋人だ。一応、がつくのが果てしなく悲しいけれど。 恐らく、端から見たら恋人だなんて分らないんじゃないだろうか。ナルはこの通り、普段は殆ど無表情。表情を変える時と言ったら、皮肉な笑いを浮かべる時くらいか。愛想笑いもないのだからある意味凄い、と言えるだろう。 デートなんて持っての他。大体、ナルが外に行くのは本を取りに行く時くらい。遊ぶ事なんて、端から考えては、まずない。 それでも根気強く彼に付き合っている自分も中々凄いと思う。何で愛想をつかないんだろうか、これがこの所目下の自分への疑問だ。 麻衣はナルのデスクの上に、湯気の弛太う紅茶を置いた。ここで彼に感謝の言葉を期待してはいけない。やはり視線は書類の先、そのまま紅茶を自分の口に運ぶのだ。 麻衣は軽く溜息をついた。自分のことを、小間使いか何かだと勘違いしていないか、この男は。 しかし麻衣もいやならすぐにやめられる。もし麻衣が拒否しても、きっとナルは何も言わない。結局、決めたのは麻衣。ナルも強制している訳ではない。彼は決して強制はしない。ここでこうしているのは、全て麻衣の意志。麻衣が勝手にやっている事なのだ。 その好意にのっかっているのはナルなのだが、麻衣の場合、好意と言うよりもあまりにも自分に無頓着な彼が心配でやっている。ナルは別になくても支障はないと思っているので、決して感謝などはしない。それはもう、暗黙の了解とでも云うべきものだ。 麻衣は何をするでもなく、黙って書類に目を通しているナルを見つめた。 相変わらずの綺麗すぎる顔。窓からの光彩が彼を明るく照らす。 「――あれ」 ふと気付いて、麻衣は思わず声を上げた。 「ナルの瞳って、完全な黒じゃないんだ」 「……なんだ?」 感心したような麻衣の言葉に、ナルは漸く書類から視線を上げ、柳眉を顰めて麻衣を見た。 「邪魔をしに来たのか?」 「いや、そうじゃなくて」 麻衣は言いつつ、ナルの瞳を眼鏡越しにじっと覗き込んだ。 「――ホラ。やっぱり、青か緑かが混じってる」 知らなかった、と麻衣が呟くと、ナルは眼鏡を外して溜息をついた。 「……麻衣」 「すごい、ただのモノト−ンかと思ってたのに」 「何だ?」 麻衣の言葉に、ナルは顔を顰めて訊ね返す。それに、麻衣は慌てて笑って誤魔化した。 「あ、あはは。いや、ナルって白と黒だけで構成されてると思っててっ」 「誤魔化すのはもっと上手にするべきですね、谷山さん」 「……ゴメンナサイ」 ナルの言葉に、麻衣は墓穴を掘ったと素直に謝る。だが、それでも顔を上げ、再びナルの瞳をまじまじと覗き込んだ。 「……すごく、綺麗な色なんだもん。何で今まで気付かなかったんだろ」 「光に当たらないと駄目なんだろう」 麻衣の言葉に、再び眼鏡を掛けたナルが答える。答が帰ってくるとは思っていなかったので、麻衣は驚いて顔を上げた。自分を見返すナルの表情は、どこか呆れ気味だ。 「光の関係で青く見える事もある。そう昔ルエラに言われた」 「……へぇ」 麻衣は少しくすぐったくなって、柔らかに微笑んだ。 「すごいね。ナルもカラフルだ」 「……何?」 ナルは軽く訊ね返す。麻衣はふわりと微笑んだ。 「人って、凄く色んな色に彩られてるんだなぁって」 目に見える世界の色。ぱっと見ではわからなくても、突き詰めていけばただの一色の色も、実はグラデーションをしていたりするものだ。 嬉しい時、悲しい時、それぞれきっと、見える色も違う訳で。 今見えている世界。きっとそれが全てじゃないのだ。 例えば――麻衣の見ている世界は、きっと誰よりも色に溢れているかもしれない。 人が見ている色を、他人が分かる事はきっとないのだろうけれども。 邪魔してごめん、と麻衣は笑って部屋を後にした。 今日は嬉しい発見があった。今はそれで十分満足。一歩、また彼の色に近付けた気がするから。
彼の見ている世界。自分と同じように、溢れる色で彩られていたらいい。
■言い訳。 わけわかりません(をいコラ)。題名はジュディマリさまの曲から。YUKIちゃん大好きです。頑張って元気な赤ちゃんを産んでくれ!! 確かまだ生まれてませんよね? ね?(曖昧) ふと「色」について書きたくなった。それというのも、何故か「人生薔薇色よっ!」というステフの声を思い出したから(笑)。ステフ、ステファニー。フルハウスの次女っこです。カワイイです。 どうにもこうにも言い訳は常にギャグテイスト。っつうか連載から逃げてますねスズムラさん(滝汗)。 ……ああ、ほのぼのって一番書きやすいなあ(逃)。
2003年04月07日(月)
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