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■ ちょっと回りにのってみた(何)
■甘いお誘い 二月十四日。日本では恋する女性のお祭りである。本来の意味を失ってここまで根付いている国も珍しいが、まんまと製菓会社の思惑にハマっているとも言える一日でもある。男共は義理でも貰えれば嬉しいし、女の子達は本命に思いを伝えようと、普段はしないお菓子作りなどする子もたくさんいる。最近では簡単に作れるキッドも多く出ているようだが、まさしく不器用な世の女性はそんな商品の格好のターゲットだろう。 だがしかし。これはすごい光景だ。 「……皆さん若いわー……」 あまりの皆様の勢いに、若干引いてしまった男、滝川法生。職業、スタジオミュージシャン。と、拝み屋。心の中で、誰も聞いてやしないのに思わず自己紹介なんぞしてみた。 彼がいるのはデパートだ。その中によく行くCDショップが入っていたので立ち寄ったのだが、行った時期がまずかった。 折しもバレンタイン前日。デパートには当然有名店ばかり並べた特設会場を設けているし、しかも今は夜。アフター5のOLのお姉さま方が一斉に押し寄せる時間だ。 たまたま帰り掛けの通り道としてそこの前を通ったのだが、どうも試食もできるらしく、それだけが目的の人もいるのではないだろうかと疑いたくなるくらい、会場は女性のみでごった返し、押し合い減し合いの異様な熱気である。 おそらく見た感じ同世代らしき人も多い。よって先程の感想に繋がるわけだ。自分で言うのもかなり悲しいが、そこまでの精神力と体力は、滝川にはない。女の方がタフだとはよく言うが、実際その通りと実感せざるを得ない。くわばらくわばら、と思わず呟いて滝川はその場からそそくさと立ち去った。 あんなとこで高いチョコを見なくても、滝川は愛娘からは確実に何か貰えるはずだ(彼女の場合は恋人が甘いものがあまり食べれないためおそらくチョコの類ではないだろうが)。真砂子も、何だかんだといって非常に義理堅い子であるから、手作りか、余裕がなければ高級菓子折りを持ってきてくれるはずだ。ここ最近はそういったパターンが毎回なので、期待はきっと裏切られない。それに、彼女達の料理は『あれ』の直伝だ。それに、『あれ』も文句を言いながらもくれる筈だ。 滝川は勝手にあれ呼ばわりしているが、決してその人物は滝川の彼女でもなんでもないのだが。 松崎綾子、副業の同業者。彼女は料理自体が好きでよく何かしら作っているから、きっと何かある筈だと滝川は勝手に思っている。 ――――勿論、彼女が個人でくれればこれ以上ないほど嬉しいのだが。 きっと、彼女は自分では言わない。負けず嫌いであるし、素直にはなれない天の邪鬼だ。 お互いいい大人であるし、互いの気持ちを察してないわけはない。薄々気付いているだろう。 それでも、滝川もまだ言わない。言えない。素直でないのは自分も同じだ。もう少し、まだ今はこの距離で満足できているから。 まだ大人になりきれていない自分。それが失くならないと、歯止めがきっときかない。大切にしたいのに、壊してしまうかもしれない。それが怖い。 ただ単に、人を愛することが久しぶりすぎて、臆病になりすぎているだけなのかもしれないが。 困ったものだと自分に苦笑して、滝川は急遽行き先を替え、そのまま綾子のマンションに向かった。 彼女のマンションへ着き、彼女の部屋の前に立ち止まる。ふと無意識に一呼吸して気持ちを落ち着かせている自分に気付いたのはいつだったろうか。今日もまた、一呼吸置いて呼び鈴を押す。 返事は、直ぐに返ってきた。 『――はい?』 「よぅ」 『…………』 彼女の呆れている様子がめに浮かぶようだ。綾子は無言だったが、インターフォンの受話器をカチャリと置く音がする。プツリと音は途絶えたが、代わりに玄関に向かってくるかすかな足音。カチャン、と鍵とチェーンを外す音がして、ドアがゆっくり開かれた。 「よっ」 伺うように現われた顔に、滝川は軽く手を上げ、笑ってみる。綾子の表情はあからさまに呆れていた。 「……毎回唐突すぎなのよ、アンタは」 綾子はドアを大きく開けると、入れば、と首だけで促す。滝川はさんきゅう、と軽く生返事をして部屋に上がらせてもらった。 勝手知ったる、といった感じで滝川はリビングへ行って、失礼、といって座らせてもらう。すでにこの部屋も来慣れたもので、噎せ返りそうになるほど多い観葉植物の数にももう驚かなくなってしまった。ぐるりと辺りを見回してみると、心なしか種類もまた増えたような気がしないでもないが。 「来るなら来るで電話なりメールなりしなさいよね。女の一人暮らしにアポなしで来るなんて」 綾子はぶつぶつ文句を言っているが、それでも唐突に現われる滝川を部屋に上げ、しかも必ずお茶まで付いてくる。そのお人好し具合に、滝川は軽く笑ってしまう。 「何よ」 滝川の笑いを聞き咎めたらしく、綾子はむっとしたように言う。滝川はいやいや、と手を振った。 「何でもアリマセン。そして手土産も持って来ずにすんません」 「全くだわ」 「ちなみにケータイは充電切れでして」 「……携帯電話の意味ないじゃない、それ」 綾子は呆れてため息を吐く。が、充電切れは実は嘘だ。不意に彼女の事を考えたら、唐突に逢いたくなったから、連絡する余裕などなかっただけの話である。普段、そんな事があってもなるべく我慢しているつもりなのだが、今日はデパートの、あのくすぐったくなるほどの浮ついた空気にのぼせた所為なのかもしれない。 だが、恋人と呼べる立場でもないのに、それをそのまま彼女に伝えたら、きっと彼女は困惑する。だから言わないし、言える立場だとしてもそんな事は恥ずかしくて言えたものでもないのだが。 滝川は、彼女から出されたコーヒーを、有り難く戴きますと言って一口啜る。それを見届けるか否かというところで、綾子は珍しく慌ただしくキッチンへと戻っていく。そのキッチンへと通ずる扉が開け放しになり、そこで初めて滝川はコーヒーの芳ばしい匂いに混ざって、何か甘い匂いがするのに気付いた。 時期を考えれば当然と言えば当然の匂いだ。おそらく明日用に作っている最中だったのだろう。 (タイミング外したかな、これは) 上げる立場としては、幾ら本人が貰える事を自覚しているものと気付いていても、やはり貰う立場がその前日にネタを知ってしまうのはつまらないし、愉快ではない事の筈だ。そうは言っても、今更わざとらしく帰るのもなんだかなと言った感じだが。 暫くして、綾子が首を回しながらリビングの方へ戻ってきた。滝川は思わず口を開く。 「悪いな、タイミング悪くて」 綾子は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに合点がいったらしく明るく笑った。 「何言ってんのよ。どうせ明日オフィスに集りに来る気満々だった癖に」 彼女としては今更、と言う事らしい。イコール、今回も滝川はその他大勢と同列の扱いと言うことも確定か。 別に期待をしていたわけではないが、何かちょっと淋しいものが滝川の胸を吹く。かといって自分で催促するのもかなり切ない。 「ねぇ、あそこって電子レンジってあったっけ?」 勝手に一人打ち拉がれていると、綾子が徐ろに尋ねてきた。滝川は現実世界に思考を戻し、慌てて考える。 「んー……いや、ないだろあそこは」 「なら丁度よかった」 「は?」 「こっちの話」 若干にやりと笑って綾子は立ち上がる。そうして、再び台所の方へと消えていった。 何だ? と声を掛けようと思ったとき、すぐに綾子はこちらへと戻ってきた。手に持っている皿に、何かを乗せて。 「……あら?」 拍子抜けて、滝川は間抜けな声を上げる。綾子はその物体を、滝川の前にことん、と置いた。 「……どーゆー風の吹き回しで?」 「アンタとことん失礼ね」 滝川が首を傾げると、綾子は胡乱気に目を眇めた。そうして、軽く息を吐く。 「これは温かくなきゃおいしくないヤツなの。どうせ明日持って行っても、オフィスじゃ食べれないし」 フォンダン・ショコラというのだと綾子は説明するが、滝川は耳に入ってはいない。お菓子の名前などは、あまり気にしないし覚える気があまりない。それよりも。 「……毒見? もしくはフライングってこと?」 時刻は夜。バレンタインまで後数時間といったところではあるが、果たして。 「いらないんなら明日の分もなしって事で」 「いやいや有難く戴きますとも」 綾子の言葉に慌てて滝川は手を合わせる。その様子に綾子は軽く噴出した。 「あと一つ、言っておくけど」 やはり旨いなぁと滝川がしみじみしながら食べていると、ふと綾子が口を開いた。そちらに顔を向けると、自分は食べずにテーブルに頬杖を付いてこちらを見ているのみ。その口元は、にやりと笑っている。 「それ、一つしか作ってないから」 「…………へ?」 「食べ終わったら持ってきてよねー」 惚ける滝川を尻目に、笑いながら綾子はキッチンへと戻っていく。「おいっ」と声をかけるが聴いてもらえず。滝川は一人、取り残された。 「……何だ?」 思わず口元が緩むのは、何も甘い菓子の所為だけではない。口元を覆って、滝川は思わず俯いた。
――――――完敗だ。
きっと今、自分はこの世で一番幸せそうな顔をしている筈だ。大人にもなって、ここまで舞い上がる気持ちがまだあったのか。
甘いお菓子と、甘い言葉と。 どちらが勝るかなんて―――決まりきったことだ。 愛しい人から漏れる言葉が、世界できっと、一番甘い。
■言い訳言い訳 アダルトスキーな私としては、リンまどかカップルと滝川綾子カップルははずせません。つうかバレンタイン前日とか文章中かいてみちゃったりしたけど実際一日遅れですから……(滝汗) そんなこんなで、日記sssにしては珍しく結構長くてしかもナル麻衣じゃないですな。ナル麻衣はだってナルの反応見えるんだもーん(こら) 滝川と綾子、大人の駆け引き。ぼーさん結構余裕ないんですが、実は綾子も余裕ないんですよ(笑)。今回の軍配は綾子さんにということで。 余談。フォンダンショコラ大好きです(何)
■お返事お返事 りむ嬢> 楽俊だしたかったら何度でも拍手をお押しになってくださいませ(笑)。そのうち出てくるから!! しょーもない文章が!!(ぁ) あと日本語の件ですが、なんとなく貴女が思いついたので勝手に言葉のキャッチボール。ね、むなしくなったでしょ……(遠い目)。 ホント切ないお話しでしたよ(何)
リンロク> ええ是非とも使ってくださいバレンタインのみ有効な誘導尋問!! もう終わっちゃったけどねバレンタイン!!(笑) あ、それとももう使いました??(笑)結果報告待ってます(笑)
■鈴村的バレンタイン 雪兎さまにたかって手作りガトーショコラとクッキー貰いました!!(ぇ) うまかったです!! ありがとう雪兎さん♪ 料理上手な友人持つといいですなぁ。ちなみに福岡のときはりむ嬢が何かしら作ってたかってました(やっぱりたかるのか) ちなみに。今日入試の誘導員の全体説明会の最中そのお貸しをばくばく食ってました(ぉぃ)。いやぁ、ほぼ勝手知ったるメンバーだから全然もう堅苦しさとか何もないし……(真面目にやれ) 嗚呼、高校のときはよかったなぁ。後輩が何も言わずにくれたなぁお菓子。ビバ女子高。あたし先輩に上げてないけど(最低) バレンタインはやはり女の子が貰うべきものだと思うのですよ(何) ホワイトデーももちらん貰うのは女性側(ぇ)。女総取り!!(止まれ)
2005年02月15日(火)
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