【読書記録】江國香織「冷静と情熱のあいだ Rosso」 |
講義でイタリアの街並みについてちょっと触れられる機会があり、その数日後にTVで本物のイタリアの街並みとそこで生活する人々を見ました。住まい主体で作られたような街並みには、くねくねした石造りの入り組んだ道とSiの言葉。ここまで見て、前回江國さんの冷静と情熱の間を読んで、私はあおいの発するSiという言葉が好きだ、と書いたのを鮮明に思い出した。読んだのはもう5、6年前なのだろうけれど、鮮やかなまでの記憶。そしてこの町。この空気。それを感じたいという思いから、今年の初めの一冊にこれを選びました。長い前置き、すみません。 さて、年月を経て読み返したとき、感じるものに変化が生じるのは私の体験としてもあるので、この物語はどう感じるのだろうかというかすかな楽しみと、イタリアの町を想像しつつ読み始めました。前回読んだとき、あおいはなんて大人で乾いているんだろうかと思いました。今となっては、まだまだ感情が読み取れていなかったのだなぁと思います。それなのに順正のことを忘れられない、何か心に残る恋をした人。そんな印象。だけど、今回「記憶の残酷さ」が胸に痛かったです。思い出は胸の中で膨張して美化されていく。ただでさえそんな性質を持っているのに、あふれるような思いまで伴って息づいていた。それなのにその記憶を封じて、今を幸せなのだとあおいなりに思い込もうとする様が、なんともいえず苦しい。たとえるならば、酸素不足の金魚がその事態にさえ気がつかずに生暖かい水中を泳いでいるような。マーヴとの恋愛について、私なりの解釈ができるほどの何かは持ち合わせていないけれど、これもまたわかるときがくるのかな。一番心に残ったのは、あおいの心のそこにある思いが全編を通じて、じわじわとあおいの今を侵食する様子。これは心地いいくらいに深くて重い。あおいのすごした長い時は、やっぱり意味があったのだろうと思う。 NO.001■p275/角川文庫/01/09
|
2008年02月18日(月)
|
|