【読書記録】魚住直子「ピンクの神様」

魚住さんといえば児童書なのですが、一般書籍コーナーにおいてあったのでどうしてかなと思い、読んでみてわかりました。もっと広く、いろいろな人に読んでもらいたいという意図なのでしょう。

主人公は小学生から50代のおばさんまでいろいろな人が登場します。そんな中、どのお話でも心の動き方、そしてなによりもその表現がストレートで、最初はこの感覚に驚きと戸惑いを感じたのですが、読み終わる頃には気持ちを鷲づかみにされました。…感情をオブラートに包むことや説明文を提示する小説は案外多くて、そこから状況把握をして理解することは出来ても、感覚での共感は得られない。その点この小説では、「この感じ知っているな」と体感して、読み終わったときに「つかまえられたな…」と苦笑してしまうような感覚は久しく、とてもすばらしいと思いました。児童書作家を油断してはいけないのです。笑

さて具体的な内容に触れると、一番感情移入して読めたのが冒頭の『卒業』:高校を出て消防士としての仕事に勤しむ寿々。しかし、職場は女性が圧倒的に少なく、高校時代の友人は進学したためその環境で忙しく、孤独感が募る日々。さびしいと言葉に出さず、しょうがないんだと自分を言い聞かせがんばるものの、ある日かかってきた友達からの電話で寿々は状況を思い知る。
言いようのない孤独感。そのわりにそれを見せずにがんばろうと思う主人公の見えない焦りと焦燥感が痛いくらいにリアルでした。この主人公はどうやってここを打破するのだろう、そう思って読み進めてほっとしました。
他にも母親の世界での身の置き場、職場・学級での自分の立ち位置など、第三者から見れば些細なことかもしれないけど当事者にとってはこの上ない複雑な心境が、やわらかく的確にしっかりとつづられています。NO.61■p212/講談社/08/06
2008年11月03日(月)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン