【読書記録】金城一紀「映画篇」 |
長編を楽しくテンポ良く読ませる金城さんというイメージのほうが強いですが、短編も秀逸。映画を絡ませながら展開する映画篇では、近隣地域でのちょっとした人々が織り成す日常と非日常の物語。最終的にローマの休日に終着する映画のお話たちは、とても心地よく読めました。
>太陽がいっぱい:自分の作品が映画化する――その現場に赴いた先で、偶然会ったのは中学時代の――民族学校時代の同級生・ヨンファだった。彼女に会ったとたん、あいつどうしてる?という言葉が飛び出しそうになったのを抑えて、僕はその場を立ち去った。中学時代、一番楽しかったあのひと時をともにした友人に思いをはせながら、僕は筆を取る。 金城さんだーと、素直にずぼりとはまった作品でした。あまりに内容がないようだったので、ずっとノンフィクション?と思いながら読んでいたくらいどきどきしました。作風は『GO』です。最後のエピローグもすごくほっとするような展開で、これだけでもこの本は読んだ価値があったなぁと思えると思います!
>ドラゴン怒りの鉄拳:何が起こったのだろう、あの二つの赤い点は何だろう。…ある日を境にぱったりと家から出なくなってしまった主婦。夫が借りていたビデオを返しに、久しぶりに外出したビデオ屋さんで人懐こい笑顔に出会った。 したのペイルライダーの予兆のような作品です。すっからかんになって、時間だけが流れていく生活がの表現が好きでした。異空間のような空気で。淡くゆっくり、けれど若々しくてそんなおっとりした恋愛の様子もほほえましく、本当にぽっと温かくなる笑顔が浮かんできました。
>ペイルライダー:僕が自分の部屋で眠った後、お父さんとお母さんが小さい声で話をしているのが聞こえてきた――。いつも仕事で家にいない両親、夏休みだというのに家で一人でビデオを見る毎日。ぼんやりとした寂しさを抱える小学生の勇は、ある日かっこいいバイクにまたがったおばちゃんと出会う。 暖かなイメージ漂う今回の短編集ではちょっとだけ異色に感じられましたが、こんなお話も魅力的だと思います。ただ、現場を見てしまった彼の記憶という点においては、ちょっと苦々しいかなぁと思わずにはいられない…。私は見たくないなぁ。でも、第三者からの視点が必要だったのは理解できるので、苦しいところでしょうか。ちょっと気になってしまって。
>愛の泉:この小説の大団円。それ以上説明はいらないはず。NO.62■p363/集英社/07/07
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2008年11月06日(木)
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