【読書記録】豊島ミホ「エバーグリーン」 |
ストーリー:俺の歌は、この大空のむこうにいる誰かには届く。そう思って今日もあぜ道を緑の自転車で、歌いながら走った。こんな田舎で一生いきるなんてありえない!そう思って文化祭のために組んだバンドはついさっき消滅した。煮え切らない仲間にいらいらしていた俺の前に、その直後、一人の地味な少女が部屋に入ってきた――(シンサイド)教室で、きらきらしてる男の子を見つけた。彼は教室の隅で、ひっそり「何かして」いて、そんな彼を私もひっそり見つめていた。…見つめるだけだった。しかし、ある日偶然話すチャンスが舞い込む。目の前を急ぎ足で去る男子生徒と、なんとなく聞き覚えのある声に、私は緊張しながら扉を開けた――(アヤコサイド)
生々しさと、少女漫画のような夢の世界が入り混じって存在するのが豊島さんの作品なのかなと思いました。絵に描いたような少女漫画的な内容紹介となりましたが、このあとに待ち構えているのは”両思いでハッピー”という二人ではありません。シンという男子は、自己主張こそ強いけれども、どこか自信がもてなくていつも誰かに認めてほしいと思っている少年。アヤコは控えめで、クラスでも目立った存在ではなく、小さな地味な夢見る少女。こんな二人がお互いに抱く感情は恋心とは少し違っていて、そしてそこから時代が経過したとき彼らに残ったものというのも実にシビアだなと思わざるを得ない展開が待ち構えています。 夢見る少女が、現実を彼女なりに捉え、そして現在の自分を意識し、周りを意識した時出てきた感情と、その後の変化がとても印象的でした。豊島さんの作風だから成り立っているお話、と言えるかもしれません。シン君もシン君でなかなかにクセのあるキャラクター。美男子かといえば、そういうわけでもなく、特に目立つ何かがあるわけでもないけれど、アヤコとは違った意味での夢見る少年です。読んでいるときは、見ていてうざったくなってくるほどの「俺ね俺ね!」というキャラクターを感じましたが、同じテーマでまったく違う角度からみた少年少女を描いた作品だったのかもしれませんね。……豊島さんの最近の作品は、裏読みしはじめるときりがない気がする今日この頃でございます。NO.71■p267/双葉社/06/07
|
2008年12月03日(水)
|
|