【読書記録】初野晴「退出ゲーム」 |
ストーリー:演劇部にいるマレン少年にぜひとも我が吹奏楽部へ入部してもらおうと努力するハルタ。しかし、マレンは楽器にまつわる思い出したくない思い出でもあるのか、高校生になってから楽器を手にしなくなっていた。演劇部部長の名越はマレンと仲がよく、彼をひきづられるように入れたものの、マレン自身は居場所が見つけられずにいた。そこで勃発した演劇部と吹奏楽部のマレン争奪戦。「マレンにまともな舞台のひとつもふませずに、演劇部をやめさせるわけにはいかない」という演劇部部長の名越と、「もともと彼が活躍できるのは吹奏楽無難だ」と言い張るハルタの間であたふたする千穂。そこで提案されたのが舞台上での勝負だった。内容は至極単純。「時間内に舞台から退出できればいい」だが、相手の退出を阻止すべく演劇部チームは奮闘。マレンは結局どうなるのか、そして彼の心にある思い出とは――。
図書館で背表紙を眺めていて、「あ!新刊が出したんだな〜」と気がついた初野さんの新刊。いつの間にか講談社ノベルスでも出していたのですね。 装丁について少し書くと、とても作り手の意気込みを感じるデザインになっていると思います。表紙の写真とフォントでイメージがある程度でき、裏表紙においても作者名とタイトルが真っ白な面に記載されています。バーコードの処理などにも気を配っている様子が感じられ、表裏で違った印象ながらも”2つの表紙”を作るという試みに強く感心しました。製作者側は違う意図だったのかもしれませんが、そのような装丁にも遊びを作って本を生かそうとする気持ちがすばらしいと思います。
さて短編連作で初の青春ミステリ、表題作は日本推理作家協会賞の候補作ということですが、私としては初野さんの作品は重くてねっとりした雰囲気が独特でよかっただけに、今回は雰囲気もキャラクターにも物足りなさを感じました。強気だけど頭の回転が速いわけでもない普通の女主人公と、美形なことを認識しつつも嫌味のない頭が切れる少年の組み合わせは、ミステリではだいぶ使い古されたコンビではないでしょうか。よって、これらキャラクターで「これは違うぞ!」という小説にさせるためには、それなりの工夫が必要だと思うのですが、毎回主に一人の新登場人物とそれに絡ませた謎解き、舞台は現代の高校、さらには”青春”と銘打っているだけあって、さらっとした雰囲気。・・・あのどろどろした重さはどこに…?とあっけにとられるのも仕方ないと思います。謎解きの際に出てくるバックグランドにおいて、それが入って暗く重いシーンもありましたが、ちょっと違うような感じを受けました。逆に言えば、「退出ゲーム」は、トリックも誰にでもわかる、知識が必要なものではない類のもので、わかったときには「一本とられたー!」と思えるようなスカッとした内容だったのが、協会にも認められたのではないかと推測できる内容でした。うーん…辛口に書くと、このままの雰囲気で続けえられるならば埋まってしまいそう。今後、どうするのかなぁ。NO.72■p261/角川書店/08/10
------------- ストックのメモは終了です!今後不定期になります。三日に一回更新で三ヶ月ほど。お付き合いありがとうございました〜♪
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2008年12月06日(土)
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