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雪嶺温泉記 - 2002年01月05日(土) 温泉に行こうよ、と昼前に起き出した私が言う。 ゆうべ寝る前にも一応話を振っておいたのだが、両親ともレスポンスは悪くなかった。 でももう昼よと母が少し渋る。ロールカーテンが年中上がりっぱなしの大窓から見える外は雪模様で、外出意欲を失ってもおかしくないとは思う。けれどこればかりは譲れない、雪見風呂くらい素敵なものはないと私は思っている。父は黙ってソファでTVを観ている。こんな空気の時の父の肯定を私は疑わない。伊勢丹か温泉どっちか行こうよと食い下がってみると、「伊勢丹はだめ、昨日もお買物したし……温泉、行くの?」父に判断を委ねる。当然返事はイエスだ。 温泉までの道のりの途中にある、父の親友が商っている手打ちうどんのお店へ寄り、おいしい(義理ではなく、本当に絶品だと思う)うどんを頂いてから咲花温泉へ向かう。鄙びた温泉街で、雰囲気とお湯がいい。 父が贔屓にしていた旅館の駐車場がいっぱいで、隣にあった別の旅館にする。外壁がコンクリート打ちっぱなしになっている和風の玄関は、最近改装したばかりなのだろう、とても綺麗で趣味がよくて感心してしまった。自分の家がこういう感じでもいいかもしれない。 残念ながら露天風呂はなかったが、浴場の一面が高い天井までガラス張りになっていて、ずらりと雪の嶺が見える。山は大きくカーブを描いて、その手前には広い川が横たわる。さらさらと粉雪が舞っている。日本画のようだ。掛け軸になっている、山水画そのもの。広い湯に母と私の他にお客さんはいない。私はこの幸福な時間のあとにくる煩雑についてふと思い描くが、すぐ考えない事に決めてしまった。 時々休憩しながらぼんやりと長い時間入浴すると、足の先まで内側から暖まるようで気持ちがいい。 帰りの車の中では、渋っていたことなどすっかり忘れたように母が幸せを語る。 家では犬が私の帰りを待っている。1日1度のお出かけの時間を心待ちに。 -
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