夕暮塔...夕暮

 

 

風の朝 - 2002年08月16日(金)

風の朝 月の夜 嵐吹く闇に 君想う時を目を瞑り過ごす




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「明日の試合、ポジションは?」
「わからん」
「明日の朝言われるの」
「…うん」
「……」
「……」
「ゼッケンはいつ貰うの? 朝付けるの?」
「もう貰った…もう付いてる、多分」
「何番」
「”1”」
「……それ、ピッチャーって事なんじゃないの?」
「…ああ、まあ、そう」
「………」


試合、見たいな、と私は誰に言うでもなく呟く。もう一度、更にもう一度。言う度に身体から色んなものが抜けて、私はどんどんしぼんでいく気がする。弟は黙っている、この子も随分大人になった、私を無理に慰めずじっと時を読む。私は明日代理出勤を引き受けた事を心底後悔するけれど、今さらどうしようもない。マウンドに立つこの子の手足は、どんな風に動くんだろう。

「もう行くから…元気でね、試合、がんばってね」
私はきっと笑えていない。黙って弟の手元を見つめる。普段ならいくらだって愛想笑いができるのに。弟は、東京で頑張ってね、と言う。こんな事言うようになったんだ、とはっとさせられつつ、言葉にできる程の元気がない。




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