日々是迷々之記
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2001年09月30日(日) 戦いの夕食

私は焼き網の上の20粒の銀杏を見つめていた。ちりちりと弱火であぶりつつ、いつはぜるか待ちかまえていた。

先日購入した「シュシュ」という雑誌に今一番好きな料理人ケンタロウ氏の料理特集があった。そこに乗っていた「牛肉入りぎんなんおこわ」を作っていたのだ。

スーパーに行き食材を揃えた。レシピでは缶詰の銀杏を使うとあったが、あの小さい缶の中に一体何粒あるかわからないので、野菜売場にある乾燥した銀杏を購入した。しかし、どうしたらいいのかわからない。火を通すとはじけるので、皮を取り除くと、緑の中身が出てくるだろうと思い、火にかけていたのだ。

「どっぱ〜ん!ぴしっ!」
いきなり跳ねて二粒消えた。探すとガス台と壁の間に落ちている。アチチチチ!となりながら菜箸で引っぱり出す。もう一つは…。おお!魚焼きグリルの中だ。引っぱり出して洗って皮をむく。

「どぱぱぱぱ!」
「アヂ〜!!!」
3粒ほどが網上から脱走、1粒がわたしに襲いかかる。はぁはぁと熱い息をもらしながら床の上の銀杏を回収。やっとの思いで皮をむく。

あと15粒ほどだ。中でもこげこげの1つを箸でとり、乾いたふきんで包む。そして軽く指でつまむとぴしっと割れ目が入った。そこからむけるようだ。しめしめ、これなら飛んでこないでむけると思い、次々とむきに入る。

その時だ。1つの銀杏が力を加えたとたんにバクハツした。「※%&#@!!!」声にならない熱さだ。わたしはふきんを放り投げ、流水に指をひたす。ひりひりする。バクハツした残骸を見ると、ちょっと色が悪かった。きっと虫食いか、なにかで中に水分が溜まっていて、それがぬくもってバクハツしたようだ。これで人が殺せると真剣に思ってしまった。

負傷した後も網の上には4粒の銀杏が。とても手で触る気にはなれず、どうしたもんかと考えた。そうだ、あれがあるではないか。わたしは4粒の銀杏をふきんにつつみ、アウトドア物置部屋へと向かった。とりだしたのは、アイスハンマー。アイスクライミングをするときに登攀用具を氷の壁に打ち込むものだ。いくら銀杏といえども、氷をうちくだくハンマーの前では無力だった。わたしの思惑通り、ぴしぴしと割れ目が入り、するするとその皮を脱いでいくのだった。

そして牛肉を炒め、味を付けて、餅米と合わせ、炊飯器のスイッチを入れた。ふごふごと炊飯器が音を立てる中で、わたしはひりひりする指をもう一度水に浸した。世の中ではこの邪悪な銀杏をどうやってむいているのだろう。謎である。あぶるときにフタをするべきなのか、何か割る物があるのか?まだまだ知らないことは多いと思いつつ、赤くなった指を見つめた。

しかし、炊きあがったおこわは私が作ったとは思えないほど美味しかった。
にっとりとしたゴハンに、ジューシーなお肉、ほこほこで風味豊かな銀杏。いりゴマを多めにふっていただく。どうだ、どうだと一人悦に入り、世界遺産を見ながらおこわを食べた。

きっとかんずめの銀杏じゃこんなにおいしくできないし…。と勝手に思いこみながら。


nao-zo |MAIL

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