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やっぱり自分は何かが欠如している、としか思えなかった。
「ねぇ、これ素敵じゃない?」
そう、彼女が指し示してきたオブジェを一瞥してみる。 「ああ・・・うん、そうだね」 煮え切らない、曖昧な返事しか出来なかった。
自分のそんな様子には気付いていないのか、彼女は尚も、店内をゆっくりとうろつきながら、自身の話や自分の興味あることを喋り続ける。
適当に、相槌を返す。
今、この状況に何の感動も、心揺り動かされる気持ちも何も感じない。 きっとこんな自分の心情が、表情に出てしまっているかもしれない、とさえ思った。 しかし、当の彼女はそんな事に気付いてはいないようだ。
もしかすると彼女は、俺自身の何も見ていないのかもしれない、と、ふと思うことがある。
表情や考え方、想像力。
そんなもの、もしかしたら彼女のリストには一切記載されていなくて、好きだといってくれているのは、ただこのルックスと、共通している趣味なんじゃないだろうか。
そんな考えに度々陥る。 どうか錯覚であって欲しい、と願う自分は、まだこの関係を壊したくないから、ではなく、波風立てずに面倒くさい事態にはなりたくないからかもしれない。 多少なりとも共に時間を共有していけば、それなりに仲が良い関係なら情だって沸くはずだ。もしかしたら、一緒にいればこの先、彼女のことを俺は好きだと思うようになるかもしれない。最初は何とも思ってなかったはずの彼女のその申し出を、数日後受け入れたのだ。 少し、軽いノリだった気もしなくは無いけれど。
しかし、ようやく半年経とうかという時に、俺は彼女の「限界」のようなものを感じた。 彼女が見ていると思っている「俺」は、俺自身ではない、何か違う人物のように感じ始めたのだ。 そんな考えが引き金になったのかもしれない。 今まで過ごしてきた楽しいと思えてたはずの時間も、今振り返るとただの砂のように無機質で、サラサラ指の間から零れ落ちていくものにしか思えなくなってきていた。 情だって湧くはず、と思っていたのに。 それを考えると、どれだけ自分は物事に無感動なのだろう、どれだけ執着心が無いのだろう、と、この先を不安に思ってしまう。 これが、あの有名な倦怠期ってヤツなのだろうか、とも考えたが、それは果たしてこんなに虚しく感じるモノなのだろうか。
早く、時間が経ってしまえばいいのに。
チリン−−−− 微かに、耳元で鈴の音が聞こえたような気がした。
その繊細な音のした方を振り返ってみてみたが、鈴らしきものなど、何も無い。 何か聞こえなかったか?と、問いかけようと彼女の方を見たが、そんな様子も無く彼女は話を続けていた。
確かに、耳元で聞こえたと思ったのに。
不思議に思いながらも、再び彼女の話に耳を傾けようとしたとき−−−
チリン−−−−−
あ、まただ。
今度こそ、勘違いではなく鈴の音が聞こえた。 だが、今のは耳元ではなく、背後から聞こえてきた気がした。
振り返り、店内を見回す。
どこだ。どこだ。どこだ。
最近何ものにも執着心の湧かなかった自分が、ここまであの鈴の音に魅かれるなんて意外だと、どこか冷静に考えながらも、目はしきりに店内を見渡していた。
あの、細かな囁く様な音が聞こえた瞬間、この人々のざわめきも雑踏も全てが無音になっていた気がする。
何だ、何だ、何だ。
先頭を行く彼女の後ろを気だるそうについて行くだけだった足が、自然と動き出した。店のあらゆる場所を巡り、目ぼしいものが無いと分かった瞬間には、店を出ていた。
・・・チリン
まただ。
ここに来て、この音はもう店内から発せられたものではないことを確信した。
でも、どこだ。 一体どこからこの音は・・・
再び、まるで水の中に潜った時の様な音の世界に引きずり込まれた。
余計な音など何一つ聞こえない世界。 心が、変に休まるのを感じた。
・・・チリン
あ。
建物の外へ通じる階段の方を振り返った。 遠のいていく鈴の音と、小さな足が駆けて行く音。
・・・子どもか?
何の迷いも無く、俺は階段へと駆け出していった。
これを下ってしまえば、もう外だ。
もう一度聞こえた鈴の音で、持ち主が外へと駆け出していったことを伝えてくれた。
きっと、このときの俺は何も考えてなどいなかった。
ただ、面倒くさい現実とかけ離れた、この繊細で心地良い鈴の音をひたすら追いかけることに夢中になっていた。
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中途半端〜。爆 物語書こうとすると、どうしても収拾つかなくなりますね。 物書きさんてすごい。
てか、近いうちにHP引っ越そうか考えてます。 改装もしたい。 てか、作り直したい。爆
飽き性ってダメですね。爆爆爆
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